第二章 お仕事しましょう

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「そうだな、プリウスはそんな悪い車とは思わないけど、個人的な好みとか思い入れは感じないもんな」 その割にハンドル捌きは悪くないし、運転は手馴れてるけど。 「セリさんは車、何か好みあるんですか」 「あー今だったらビートルのカブリオレかチンクチェントの新しいやつがいいな。チンクチェントもできたらカブリオレがいいかも」 「割と独特な好みですね(その言い方、褒めてないじゃん)。ご自分で車、持たないんですか」 「都内とても運転できない…。持ってても、乗れないんじゃね~」 野上は運転しながら、助手席のわたしをちらっと見た。 「運転得意じゃないのに、車に関心あるって珍しいですね。普通女の人って、あまり車種知らないじゃないですか?」 「そうかね?あんまり女の子とそんな話しないから、わかんないな」 まぁ一般的にはそうなのかな。あとプロ野球の話も怖くて振れないね、確かに。 わたしが運転も碌にできないのに車に詳しくなったのは、たまたま別れた夫が二人とも車好きだったからだと思う。話を合わせたり耳を傾けたりしているうちに、自然に影響を受けた。離婚してからそこそこ経つけど、一度路上の車に目をやる習慣がついちゃうと、それなりに詳しくなっていくものだ。 これで自分でちゃっちゃと運転できたらカッコよかったんだけどね。 「野上くんは、都内出身だよね」 実家宅の留守番任されてて、うちからそう遠くないわけだから当然そうでしょう。 「はい、そうです」 「だからあんまり、車に関心ないのかもね」 「セリさんはどちらですか」 「神奈川の田舎の方。車ないと不便なんだ」 「神奈川って田舎なとこあるんですか」 「あるぜ、すごいよ。知らない人は神奈川って、横浜と鎌倉と湘南と箱根だと思ってるから」 「え、箱根って神奈川県なんだ…」 どんだけ関心ないんだよ!これだから東京都民は。 「あんまり箱根とかドライブ行かないんだ?運転上手いのに」 「え、そうですか。ありがとうございます」 それまでのやり取りはクールな受け応えだったのに、ちょっと褒めたら少し頬と耳が赤く染まった。やや不自然な早口になって答えてくる。 「箱根も何度も行ってるんですけどね。どこで神奈川県に入って、どこで静岡になったかはあまり気にしたことなかったので…」 「静岡には入らないよ…。それは伊豆でしょ」 「伊豆は静岡なんだ…」 「そうだね」
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