第二章 お仕事しましょう

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なんか噛み合わない会話をしているうちに、目的地のお宅が近づいて来た。 ふと思ったけど、そう言えば元夫たち二人とも、地方出身だったなぁ。それとも年代のせいかね?今の子は車とか興味ないの、普通かもしれないな、なんてぼんやり考えていたら、 「…なんか、他の男の人と較べてますよね」 ぼそっと言われて、え?と我に返った瞬間、ちょうど車が停まって目的地に到着。 ちょっと心臓に悪かった。思えば疚しいことなんかいっこもないのに。 「お疲れ様でした!」 打ち上げという名の飲み屋での夕食のあと、二次会という名の飲み足りない分を補充する軽い飲み…って普通か、二次会の定義としては。こういう時によく使う行きつけのバーに、翠文堂さんとわたしと野上はいた。 「いやしかし、セリちゃんとこもついに社員さん採るようになるとはね~。最初はちょっとした副業って感じだったのに。順調な成長ぶりだね」 翠文堂さんは名前を清原さんといい、わたしより年齢は上の四十代…半ばくらいか。老舗の古書店の二代目ご主人で、わたしがこの仕事を始めた初期の頃からお世話になっている古い関係である。だからまぁ、この場は接待とはいえかなり気楽といえば気楽だ。 「そんなに儲かってるとは言えないんですけどね。薄利多売ですから、人手が常に足りないっちゃ足りないんで」 「言ってくれたら俺だって手伝うのにー」 酒の入った席の軽いノリで気楽に発言する清原さん。こっちからも適当にいなしとけ。 「はいはい、本業の暇な時限定でしょ。それじゃあ全然あてになんないし」 「やー俺だってセリちゃんと毎日働きたいもーん」 マジで酔ってやがる! 酔っ払いのおっさんは、大人しく飲んでる野上の方へ話しかけた。 「野上くんだっけ。君は遺品整理の買い取り、初めてだったの」 「はい、そうです」 全く酔っている様子のない野上は、生真面目に返事した。わたしが横から口を挟む。 「遺品整理は、そんなにしょっちゅう入る仕事じゃないからね」 「お得意様とか、伝手のある蔵書家の方が亡くならないと発生しない作業だしね。それでも俺は、割と時々あるよ。今回みたいに雑食系の読み手の方の遺品の時は、セリちゃんにもこうやって声かけるけど、地方の旧家の土蔵で古文書ばっかの時とかもあるからね」 因みに翠文堂は、古文書及び歴史書が専門の古書店である。
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