第二章 お仕事しましょう

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「で。どう感じた?今日の仕事」 「本の数が凄くて…、圧倒されました」 「だね。あんなに広い家なのに、奥さん本持て余してたもんな」 うん。結果だいぶ遅くなったにせよ、今日中に作業終わったのは正直奇跡。因みに翠文堂さんはお気の毒に明日も本日のお宅で、作業継続の予定です。 「あと、セリさんの作業の早さ…」 「そうそう!すごいでしょ。初めて見たらあれびっくりするよね。ザーッと見て、ぱぱーっと分けてはい次!だからね。本当早いんだよ」 「だって、翠文堂さんと違って、鑑定とか必要じゃないですし…。あんなもんじゃないすか」 「いや、要る本と要らない本の判別の決断がすごい早い。男らしいんだよ、仕事っぷりが」 男らしいって褒め言葉か。一応言っとくと、要らない本のうちでも文庫、雑誌、サブカル系の本は、わたしが責任持って某新古書店チェーンなどにまとめて持ち込ませて頂き、処分しています。僅かばかりの手数料は頂きますが、まぁサービスみたいなものです。蔵書家のご家族の方などは、特に本の扱いに慣れているわけでもないので、とにかく残さず全部処分して差し上げると結構喜ばれます(勿論、新古書店から払われた代金はそのままお渡ししている)。わたしも素人時代、古本屋にまとめて本を持ち込んだ時に、要る本を抜いた残りを「これは引き取れません」とごっそり突き返されて、途方に暮れた経験が割とあるので。 実際わたしが欲しい本より、残す本の方が一般的には売れ筋だったりするので(やはり蛇の道は蛇というか、類友というか、わたしの顧客の方々はちょっと好みが偏る傾向にある)、新古書店さんにも特に迷惑はかけていないと思う。 「この人の背取りすごいよ。新古書店の梯子一緒にしたことあるんだけどさ。鋭い目つきで棚の本の背に軽く指を当てて、サーッと走らせながらすっすっと本を棚から抜いてくんだよ。一瞬で終わっちゃう。終いには、すいません自分のペースで回っていいですか?とか言ってさっさと次の店行っちゃって」 「すいません…」 身を縮める。なんか恥ずかしい。本を見てる時、社会性が飛んでるのを自ら実感する。 「早いのも早いんですけど、ミスがなくて」 野上が口を挟んだ。 「セリさんが分けたあとのものを、今注文を受けてる本とよく注文が来る本のリストとチェックがてら突き合わせてみたんですけど、取り零しいっこもなかったです」
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