第二章 お仕事しましょう

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「セリさん、俺今日ちゃんと仕事出来てたですか?」 野上が唐突に口を開いた。その内容はともかく、声は完全なる酔っ払いである。 「うん、きちんとやってくれたよ。チェックもフォローもしてくれたし、雑用も気を利かせてくれたし、力仕事もしてくれたし。助かった」 「本当ですか。嬉しいです。俺、セリさんの役に立ちたいっす」 「役に立ってるよちゃんと」 「本当っすか」 同じことを繰り返す。酔っ払いの会話。手を伸ばして、わたしの手をぎゅっと握った。 「セリさん、好きです」 「はいはい」 「はいはいっかいですよ」 向こうからヘッドライトが近づいてきた。 「タクシー来たぞ。乗れ。ちゃんと立てるか?」 野上はふうっとため息をついて立ち上がり、何とか車の開いたドアの方へ向かう。背中に軽く手を添えて支えてやる。意外とこいつ身長あるな。多分百七十後半くらいあるかも。 大人しく乗りかけて、急にぶん、とこっちを振り向いた。「セリさん、送らないと」 「いや、大丈夫だから。うちこっから歩いてすぐだし。お前んとこはさすがに歩いては帰れないだろ。ちょっと距離あるし」 運転手さんに住所を伝えて、よろしくお願いします、とタクシー代を渡す。 「これで足りますか。お釣りは取っといて頂ければ」 「セリさん、夜道歩かせられないですよ」 「すごく近いし、暗い場所いっこもないから平気だって。自分の心配しな。明日、ちゃんと仕事来られる?」 ヤツの背筋が心持ち伸びた。 「大丈夫です」 「よし。今日は大変だったね。今夜は少しでもなるべく休んで、明日に備えてくれればいい。普通に事務所での作業だから、昼頃出勤でいいよ。メール入れとくから」 運転手さんに、出して下さい、と声をかけて手を振って車を送り出した。タクシーが道を曲がって見えなくなるまで一応見送る。 あ~…、これで、今日の仕事終わった~。 店内に戻ると、友明は店仕舞いの作業中だった。戻ったわたしを見て声をかけてくる。 「よ、お疲れ」 わたしはさっき座ってたカウンター席にどん、と再び腰をかけた。 「これ、最後まで飲んじゃってもいい?」 「どうぞどうぞ。あと少しで片付くから、それまで待ってて。送ってくから」 「もう店閉めるの?」 「客もう来ないよ。あと少しで二時だし」 時計を見る。わ、本当だ。遅…。 わたしはカウンターに寄りかかり、腫れぼったい瞼を閉じた。さすがに疲れた。寝そう…。
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