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「セリさん、俺今日ちゃんと仕事出来てたですか?」
野上が唐突に口を開いた。その内容はともかく、声は完全なる酔っ払いである。
「うん、きちんとやってくれたよ。チェックもフォローもしてくれたし、雑用も気を利かせてくれたし、力仕事もしてくれたし。助かった」
「本当ですか。嬉しいです。俺、セリさんの役に立ちたいっす」
「役に立ってるよちゃんと」
「本当っすか」
同じことを繰り返す。酔っ払いの会話。手を伸ばして、わたしの手をぎゅっと握った。
「セリさん、好きです」
「はいはい」
「はいはいっかいですよ」
向こうからヘッドライトが近づいてきた。
「タクシー来たぞ。乗れ。ちゃんと立てるか?」
野上はふうっとため息をついて立ち上がり、何とか車の開いたドアの方へ向かう。背中に軽く手を添えて支えてやる。意外とこいつ身長あるな。多分百七十後半くらいあるかも。
大人しく乗りかけて、急にぶん、とこっちを振り向いた。「セリさん、送らないと」
「いや、大丈夫だから。うちこっから歩いてすぐだし。お前んとこはさすがに歩いては帰れないだろ。ちょっと距離あるし」
運転手さんに住所を伝えて、よろしくお願いします、とタクシー代を渡す。
「これで足りますか。お釣りは取っといて頂ければ」
「セリさん、夜道歩かせられないですよ」
「すごく近いし、暗い場所いっこもないから平気だって。自分の心配しな。明日、ちゃんと仕事来られる?」
ヤツの背筋が心持ち伸びた。
「大丈夫です」
「よし。今日は大変だったね。今夜は少しでもなるべく休んで、明日に備えてくれればいい。普通に事務所での作業だから、昼頃出勤でいいよ。メール入れとくから」
運転手さんに、出して下さい、と声をかけて手を振って車を送り出した。タクシーが道を曲がって見えなくなるまで一応見送る。
あ~…、これで、今日の仕事終わった~。
店内に戻ると、友明は店仕舞いの作業中だった。戻ったわたしを見て声をかけてくる。
「よ、お疲れ」
わたしはさっき座ってたカウンター席にどん、と再び腰をかけた。
「これ、最後まで飲んじゃってもいい?」
「どうぞどうぞ。あと少しで片付くから、それまで待ってて。送ってくから」
「もう店閉めるの?」
「客もう来ないよ。あと少しで二時だし」
時計を見る。わ、本当だ。遅…。
わたしはカウンターに寄りかかり、腫れぼったい瞼を閉じた。さすがに疲れた。寝そう…。
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