第一章 君はどんな人

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「うちで結構長くやってる契約社員の子なんだけどさ。その前はやっぱり出版社の営業さんだったんだけど、余りの苛酷さに転職してきて。ほら、あのブラックって噂の」 一条さんが挙げた出版社の名前は、転職率の高さで業界でも有名な、ちょっと問題の会社だった。何しろ三ヶ月の試用期間で、ほぼ全員の新入社員が辞めてしまうという噂なのだ。何が何でも出版社希望、という学生が跡を絶たないので、辞められても次の補充が何とかなるため、この業界そういう困った会社がいくつかある。 「あそこじゃ続かなくてもまぁしょうがない、と」 「うんまぁ、そうでしょ。それでうちに来て、ずっと契約社員でやってるんだけど、仕事ぶりもいいし、そろそろ正社員にならないかって話になったんだよね。たださ、うちみたいな全国チェーンの店はさ、正社員になるとまず地方に行って店長やるとこからスタートしなきゃいけないんで。最初から首都圏勤務はないんだよね」 そういう一条さん本人も、実際数カ所の地方転勤を経て、現在東京にめでたく戻って来られたわけだが。帰還ついでに札幌からお嫁さまを連れてきたというおまけつき。 「そういう話をしてみたら、どうも東京を離れる のはできないっていうことなんで」 「はぁ、なんでですか。彼女を置いてけないとか」 「そんな理由だったらはたいたる。でなくて、家族が皆アメリカに移住しちゃってて、結構大きな家の留守を任されてるらしいんだよね。家を空けるわけにはいかないから、転勤はできないんですって残念がってて…。 かといって、ひとりだけ特別扱いもできないし、今首都圏の店舗に正社員の空きないしさ。 でも、そういうことなら、このままうちで契約社員続けてても、正になる道がないなら、いっそ他の進路を模索してみた方がいいのかな…と考えちゃったりもしてね」
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