第一章 君はどんな人

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なるほど。 「事情はわかりました。でも、てことは、本人はこの話、承知してないですよね」 「うん、だって俺、今思いついたことだから」 一条さんはあっけらかんと答えた。まぁそうでしょうけどさ。 「ふぅん…、社員雇うってことになると、待遇とかもちゃんと考えなきゃならないし、何より本人が本当にやりたいのか、そこら辺確認してからですね。あと、勿論、わたしもその人見たいですし」 「じゃあ、そういう口があるかもって話は本人にしてもいい?」 「オッケーです。てかむしろ、意思確認しといてください。話はそっからですね。あ、あと、面接するまでは当然本決まりじゃないですよ」 一条さんはにっこり笑って、手をひらひらさせて見せた。 「さすがセリちゃん、話が早い。相変わらず男前だね」 「一応、個人事業主なんで…」 肩をすくめて、褒め言葉(多分)を謙遜気味にやり過ごすと、一条さんは大丈夫大丈夫、と明るく言った。 「本人は真面目できちんとしてて、なかなか気持ちのいい男だよ。一緒に仕事するには悪くない相手だから。多分セリちゃんも気に入ると思うよ」 そしてその三日後、一条さんの計らいで面接にやって来たのが、この野上誠吾というわけなのだった。 一条さんご推薦なだけあって、受け応えもしっかりしていてまともそうで真面目だったので、こちらも思いきったのだが。まさか採用して一週間で早くもこのような奇想天外な局面を迎える羽目になるとは。人を使うって難しいな。いやそういう一般化できる状況なのかな。とにかくこの、土下座という非現実的な相手の姿勢を解いて場面のビジュアルを変えたい。 「えーと、野上くん(だったよね?)。とにかくその、まず顔を上げて。普通に話してくれるかな」 早くこのクレイジーな状態を正常化したい気持ちから、得体の知れない相手を刺激しないため、なるべく穏やかな声を出すよう心がけてみる。間違ってもテメェ何のつもりなんだよ、と足蹴にしたりしてはいけない。例え本心はそっちでも。こちらが冷静にならないと。 野上くんは恐るおそる顔を上げて、やっとわたしを見た。大人しい小動物のようだ。見た目は悪くないが、正直まだちゃんと顔を覚えてないので、外で人混みの中で偶然会ったら絶対に判別できない自信がある。そんな自信何にもならないか。
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