第一章 君はどんな人

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「あのさ、話しにくいから、とにかくまず座ったら。椅子ってもんがあるんだし」 手で促して、リビングの中央に置かれたソファに座らせた。このソファも、従業員が増えたら邪魔だから処分して、デスクを増やすつもりだったのに時間がなくて間に合わなかったんだよな、と頭の隅で思う。自分は話の雲行き上、同じソファに座るのは死んでも嫌なので、壁際に置かれたデスクの前から椅子を引っ張ってきて座った。 「で、さ。一応聞くけど、なんであたしとやんなきゃいけないと思ったわけ」 野上は恐縮したように頭と手を振って、滅相もないという素振りを見せた。 「そんな、しなきゃならないなんて…。あの、ただ、飲みに連れてって頂いたあと、うちへこない?って誘ってくださったから、そういうチャンスなのかなと…。絶対できる!って自信があったのに、いざとなるとやっぱり…、あー自分は女性とは無理かもって思い始めてしまったら、もう」 ?? 待て待ていろいろついて行けてない。 「えーと…、まず順番にひとつずついこうか」 頭を抱えたい気持ちを抑えて、はぁーとため息をついて背もたれに寄りかかる。 「ここさ、明日から君も出勤する事務所。わたしの自宅ってことじゃないから」 「え」 「初めて聞いたみたいな顔すんな!言ったよちゃんと、あたし住んでるけど事務所だからって」 まぁ、確かに…、見た目は全く普通に人の住んでるプライベートの空間そのものだけど。てか、自分のそれまで住んでた自宅マンションを事業所と届け出て早三年、ずっとひとりで仕事してて人を呼ぶ必要もないのをいいことに、模様替えさえせずそのまま仕事してたのも問題って言えば問題だったか。今回急な採用で新人用のデスクも間に合わず、普通にソファ置いたリビングにしか見えない空間なことは否めないけど、でもここで、君も明日から仕事するから。 そう、採用から一週間経ったが、実はたまたま繁忙期に被ってしまい、わたしはひとり地方出張に出てその間彼にはメールで送った作業を自宅でこなしてもらったり、日帰り出張が二回入って同行してもらったりで、考えてみたらまだ一度もこの事務所で仕事してなかったのだった。それで今日、東京近郊の日帰り出張に一緒に出た帰りに軽く飲んだついでに、明日から出勤する事務所見てくか?というノリで軽く誘ったんだが。説明したつもりだったけど。
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