第二章 お仕事しましょう

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「おはようございます」 朝も早いうちからドアチャイムの音で起こされ、もそもそ扉を開けに行くと、あれから一週間ほど経ってすっかり元気を取り戻した青年が入ってきて溌剌と挨拶をした。 「…はよっす」 不機嫌な声で挨拶を返して、キッチンにコーヒーを淹れに行く(自分が飲みたいから)。どんな目で見ても社会人として駄目気味なのはこっちの方だと思う。髪を手櫛でいい加減に落ち着かせて、欠伸を噛み殺しながらカップを取り出すわたしの背中に、後からキッチンに入ってきた野上くんが声をかける。 「コーヒー、俺が淹れますよ。向こうで座っててください」 なかなか気が利く。 「いや、ありがたいけど…。なんか今座ると、そのまま寝そうなんだよね…」 「寝てないんですか、昨夜?そんなに忙しかったんなら、言ってくれたらお手伝いしたのに」 「忙しかったってほどでもない。ネットでずっと注文品探してたら、だらだら時間ばっかり経っちゃって…。結局寝落ちした」 「ちゃんとベッドで寝なかったんですね、じゃあ」 しょうがないなぁ、とブツブツ言いながらコーヒーサーバーに粉を大雑把に放り込む野上くん。結局彼にコーヒーを淹れさせてるわたしなのだった。キッチンの椅子に寄りかかるように座って目を閉じた。 「あ~爽快じゃない朝だなぁ…」 「そんなのセリさんだけですよ。ちゃんと昨夜しっかり睡眠とって起きた人はみんな、爽やかに感じてると思います。快適ないい気候ですよ」 こっちが気力ないのをいいことに、つけつけと言い募る。意外とこういう性格か。思ったより生意気なヤツだった。この前アドバンテージがこっち側にあるうちに、もっと徹底的に弱らせておくべきだった。 コポコポ音が立って、わたしがこの世で一番好きな香りで部屋の中が一杯になる。セリさん、はい、という声がして、目を開けると湯気のたつカップが目の前に差し出されていた。 「…ありがと」 「それ飲んだら、少し眠ったらどうですか。やること教えてもらえたら、俺でできることはやっておきますよ」 お前なかなかいいヤツかも、野上。しかし残念ながらそうはいかない。 「気持ちだけ受け取っとく…。今日はちょっと、もう少ししたら出ないと。大口の遺品整理があるんだよね。翠文堂さんにくっついて行かせてもらう約束になってるから。…あんまり時間ないや」
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