プロローグ

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 灰原柚依(かいはらゆい)はローファーを鳴らして歩いていた。冬仕様の黒のセーラー服の胸元には、学年色の緑のリボンが揺れている。スカートは膝上で、白の膝下のハイソックスを履き、学校規定の黒のスクール鞄を肩に掛けている。大人とよく間違われる程の整った顔立ちで、制服を着ていなければ高校生と言っても信じてもらえなかった。髪型はウェーブのかかったショートボブ。茶色の髪色のせいで、生活指導の先生にはよく黒に染めるように注意されている。けれどこれは地毛。いくら先生に言われても、柚依には染める気は全くない。  部活が終わり外に出てみれば、空は既に真っ暗で鈴虫の鳴き声が秋の夜を飾っていた。 「冷えてきたなぁー」  ぽつりと呟き、足を速める。時刻は8時を廻っていた。早く帰らなくては。祖母が夕飯を並べて待っている姿が思い浮かぶ。その思いがさらに柚依の足を進める。ふと顔を上げると、住宅街の家々には明かりが灯っていた。空いた窓からは家族の笑い声やテレビの音が漏れている。鼻をくすぐる香ばしい匂い。今は夕飯時なのだろう。柚依は立ち止まり空を見上げる。 「…いいなぁー」  柚依はゆっくりと目を閉じる。きっとこの明かりの灯った家の人々は、家族で食卓を囲み食事を楽しむのだろう。温かい部屋、おいしいご飯。柚依は想像の食卓を思い浮かべる。 ―ぐ~。 「…お腹空いた…早く帰ろー」  しかしそれは柚依自らの腹の音で中断された。柚依はお腹さすって再び歩き出す。
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