プロローグ

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「ただいまー」  柚依は玄関の引き戸をゆっくりと開く。閑静な住宅街の中の平屋の一軒家。そこが柚依の家だった。 「おばあちゃん?」  玄関にだけ点けられていた明かり。奥へと続く廊下は真っ暗だった。 「…寝ちゃったのかなー」  早寝早起きの祖母が寝てしまっているのは珍しくなく、柚依は祖母を起こさない様に足を忍ばせて居間に向かう。 「あれー?この写真…」  柚依は廊下の壁に飾られた1枚の写真を見つめる。朝見たときには無かったからきっと祖母がどこからか見つけてきたのだろう。懐かしい写真に柚依は目を細める。そこには柚依と祖母。そして、随分前から会っていない両親の家族4人の写真が飾られていた。最後に両親に会ったのは3年前。  帰宅して真っ暗な部屋を見るたびに柚依は言いようのない寂しさに襲われた。もちろん祖母がいてくれるから本当に1人になったわけではない。祖母のことは大好きだ。それでも、両親がいない寂しさが無くなることはなかった。  以前、授業で一番欲しいものはなにかと聞かれたことがある。その時は答えられなかったが今なら言える。家に帰って、両親に「おかえり」と言ってもらえること。それが一番欲しいものだと言ったら笑われるだろうか。そのささやかな夢に柚依は1人苦笑する。 「私には、大好きなおばあちゃんがいるしね」  柚依はいつもの様に居間の引き戸を開けた。そこには真っ暗な居間がある。はずだった。
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