第1章

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教室の戸を開けたら、そこにはライフがいた。 ライフというのは杉山君のことだ。 彼は社会の授業で「商品が生産者から消費者へ売買されていく流れを何と言いますか」という質問に「ライフ・ゴーズ・オン」と返答した。クラスのひょうきん者が笑いを取るためにした返答なら別だったろう。ふだん寡黙な杉山君がそう答えたため、それがあだ名になった。 戸を開けたのが俺だと分かり、杉山君、いや、ライフは黙って頷いた。 カリカリカリカリ… ライフは扉に穴を開けていた。彫刻刀の中のキリのような1本で、静かに、しかし着実に穴を掘っている。 「……よし」 貫通したようだ。 ライフは今朝何時に登校したのだろう。いつも俺が一番乗りで、教壇に立ち地理教師の真似をするなどして自由を満喫している。ライフは相当早く起き、明確な意思をもって穴あけに臨んだはずだ。 一仕事終えたかのように、ライフはのびをした。涼しげな顔をしている。悔しいことに俺なんかに比べたらずいぶんイケメンなことをここに記しておく。 俺はハッとした。 「ま、まさか…」 教室の後ろにデカデカと貼られている時間割りに目を走らせる。 「……5時間目」 ライフは何事もないように言う。 体育!女子は隣の教室で着替えるのだ。 その穴の開いた扉の向こうで。 ライフと俺は目線を交わし、頷き合った。
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