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「あーあ、それにしても詐欺だよなぁ」
学校の中庭を並んで歩きながら、空は少し拗ねたように口を尖らせる。
「別に幽霊でもないし」
「幽霊『みたいな』ものじゃない。実際、ずっと病院のベッドにいたんだし」
納得いかなそうな空に、絢芽は肩を竦め苦笑する。
絢芽は本当は、事故に遭ってずっと病院に入院していたのだった。ただ昏睡状態だった事と、ピアノに対する強い想いから幽体を生み出した。本人もそれに気付いておらず、自分は死んだのだとずっと思っていた。幽体が消えた時に、体に意識が戻ったのだ。
「ごめんってば。でも、自分でも生きてるなんて思ってなかったし。だけど、芹澤くんがいてくれたから頑張れたのは本当だよ?それがなかったら、きっと意識戻らなかったと思う」
絢芽は、来月から二年の学生として復帰する予定らしかった。今日は、復学の手続きにきていたのだ。二人は校舎に入ると、どちらかともなく音楽室に向かった。
「まぁ、良いや。とりあえず、またピアノ聴かせてくれよな。今度のコンクール、出るんだろ?」
「えぇ、もちろん」
ようやく笑顔を見せた空に、絢芽はにっこり笑って頷いた。音楽室には、壁に掛けられた真新しいドレスが風になびいていた。
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