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音楽室に着くと、二人は廊下にあるロッカーの陰に隠れた。もし幽霊などではなく、生きている人間なら音楽室に入る所が見れるようにだ。……待つ事30分……。先に痺れを切らしたのは、空の方だった。
「なぁ、今日はハズレなんじゃないか?」
確かに、噂では毎晩現れるとは言われていない。
「えーっ、折角ここまで来たのに……」
雪哉が不服そうな声を上げた時、不意に音楽室の中からピアノの音が聴こえてきた。
「うわっ、ホントに来た!」
勿論、音楽室の鍵が閉まっている事も中に人がいない事も確認済みだ。
「ほら、さっさと行けよ。解明して、校内新聞のネタにするんだろ?」
空は、怯える雪哉の背中を押すように言う。
「あ、あぁ……」
空に促され頷くも、雪哉は完全に腰が引けていた。それでも、震えながら一歩ずつ音楽室に近付いて行く。だが、
「ーーーゴメン、空っ!!」
「あっ、おい!」
雪哉は叫ぶと、空が止めるのにも構わず一目散に逃げ出した。
「あの野郎、明日覚えてろよ」
空は逃げ出した雪哉の後ろ姿に、些か怒りを含んだ口調で呟いた。空は音楽室の方へ視線を移した。今なら自分も、幽霊から逃げられる。だが、そんな思いとは裏腹に、空は扉に手を掛けていた。恐怖よりも、見てみたい好奇心が勝ったのだ。この学校の多くの生徒を脅えさせている、幽霊の正体を。
電気の消えた音楽室。音を立てないようそっと開けると、月明かりで照らされた室内に、ピアノを弾く人影が目に止まった。髪の長い、少し小柄な少女の姿。空は、幽霊の事も何もかも忘れて、ただ茫然と少女の歌に聴き惚れていた。
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