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一体、どれくらいそうしていただろう。弾かれたように、ピアノが止まった。空が我に返ると、少女が驚いたようにこちらを見ていた。
「…………っ!」
空は慌ててドアを閉めると、元いたロッカーの陰に隠れた。心臓が早鐘を打っている。そして、目が合ってしまった、どうしようなどと詮ない事を考えていた。すると、カラカラと乾いた音が響き音楽室のドアが開けられる。
「あの……」
遠慮がちに、少女が声を掛けてくる。
「すみません、ご迷惑ですよね。毎夜毎夜……」
小さく呟くと、少女は深々と頭を下げた。
「あ、いや、こっちこそ邪魔したみたいで、ごめん」
空は、たどたどしくそう言うしか出来なかった。恐る恐る立ち上がって、相手を見やる。どこからどう見ても、普通の女の子にしか見えなかった。……肝心の足は、普通に付いていた。
「俺は、芹澤空。君は?」
「……片霧絢芽です」
唐突な空の問い掛けに、少女は戸惑いながらも名乗った。
「ねぇ、君ホントに噂の幽霊?それに、その制服もしかしてウチの生徒だったのか?」
「はい。私、三年前はこの学校の二年だったんです。幽霊……そうですね、そんなものだと思います」
少し首を傾げ、絢芽は言った。
「何でまた、音楽室に?」
「……私、ピアノが好きだったんです。毎年この時期に開かれる、ピアノコンクールにも出る予定でした。でも、こんなになっちゃったら、もう出られないから。それがすごく心残りで。そう思って、気付いたらここにいたんです」
そう、絢芽は儚げに微笑んだ。
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