第1章

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 だが、予想に反して音楽室は開いていた。 「……ちゃんと開けててくれたんだ」 「芹澤くん!」 空の姿を見、絢芽は嬉しそうに微笑む。 「ホントに…来てくれたの?」 「約束したからな」 嬉しそうに立ち上がる絢芽に、空は照れたように素っ気なく言う。そうして、時間の許す限り絢芽のピアノに耳を傾けた。空にとって、それは次第に当たり前になっていった。  夜中の奇妙な逢瀬を重ねるうち、二人は互いの事を色々と話すようになった。学校の事や、自分のクラスの事など様々な事を。 「そう言えば、片桐は何で、その……」 言い淀む空の考えを察したのか、絢芽は力なく微笑を浮かべる。 「三年ほど前かしら。ピアノの練習を終えて、帰る途中に事故に遭ってしまって」 淡々と話す絢芽は、どこか他人事のように、諦めてしまったように感じて。空は、自分で聞いたにも関わらず、何も答える事が出来なかった。今まで彼女は、自分の存在しない世界をどんな気持ちで見ていたのだろう。 「でも、ここは霊的な力が強いみたいで、辛うじて私も存在していられるから。それに、他の人には迷惑だろうけど。こうしてピアノに触れる事が出来て、私はそれだけでも嬉しいんです」 空を気遣ったのだろうか。絢芽は、にこりと笑顔を見せた。 「……無理、すんなよ。俺だけにはさ、せめて本音言っても良いんじゃねぇの?」 居た堪れず、空はそんな事を口走っていた。自分に何が出来るわけでもないのだが、このまま見て見ぬふりは出来なかった。……それが、捨て猫に餌をやるような、更に残酷な言葉だったとしても。それでも、言わずにはいられなかったのだ。
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