4人が本棚に入れています
本棚に追加
だが、予想に反して音楽室は開いていた。
「……ちゃんと開けててくれたんだ」
「芹澤くん!」
空の姿を見、絢芽は嬉しそうに微笑む。
「ホントに…来てくれたの?」
「約束したからな」
嬉しそうに立ち上がる絢芽に、空は照れたように素っ気なく言う。そうして、時間の許す限り絢芽のピアノに耳を傾けた。空にとって、それは次第に当たり前になっていった。
夜中の奇妙な逢瀬を重ねるうち、二人は互いの事を色々と話すようになった。学校の事や、自分のクラスの事など様々な事を。
「そう言えば、片桐は何で、その……」
言い淀む空の考えを察したのか、絢芽は力なく微笑を浮かべる。
「三年ほど前かしら。ピアノの練習を終えて、帰る途中に事故に遭ってしまって」
淡々と話す絢芽は、どこか他人事のように、諦めてしまったように感じて。空は、自分で聞いたにも関わらず、何も答える事が出来なかった。今まで彼女は、自分の存在しない世界をどんな気持ちで見ていたのだろう。
「でも、ここは霊的な力が強いみたいで、辛うじて私も存在していられるから。それに、他の人には迷惑だろうけど。こうしてピアノに触れる事が出来て、私はそれだけでも嬉しいんです」
空を気遣ったのだろうか。絢芽は、にこりと笑顔を見せた。
「……無理、すんなよ。俺だけにはさ、せめて本音言っても良いんじゃねぇの?」
居た堪れず、空はそんな事を口走っていた。自分に何が出来るわけでもないのだが、このまま見て見ぬふりは出来なかった。……それが、捨て猫に餌をやるような、更に残酷な言葉だったとしても。それでも、言わずにはいられなかったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!