第1章

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 だが、こんな生活がずっと続きはしない。終わりは、以外と呆気なく訪れた。  その日、絢芽はずっと元気がなかった。ずっと何かを考えるように、沈んだ面持ちでピアノに向かっていた。 「なぁ、どうかしたのか?最近、元気ないんじゃないか?」 気になった空が、思い切って聞いてみる。 「芹澤くん……」 絢芽は揺れる瞳で空を見つめ、重い口を開く。 「……私ね、もうココにはいられないの」 「……は?」 唐突な絢芽の言葉に、空は一瞬理解する事が出来なかった。 「何で?だって、ずっとここにいたんだろ?」 「そうだけど、私にはわかるの。自分の終わりが近いって事」 唐突に告げられた言葉に、空は何も言えずに立ち尽くす。 「何で……」 再び、そう呟くのが精一杯だった。 「俺、片霧のお陰でやっとやってみたいって思う事出来たのに」 低く呟く空の言葉に、絢芽は顔を上げた。 「片霧のピアノ聴いて、もっと音楽勉強したいって、曲作りたいって思うようになったのに……」 絢芽は驚いたような顔をした後、嬉しそうな表情に変わる。 「素敵。ねぇ、私が消える前に、私のために曲を書いてくれない?」 「俺が?」 空の言葉に、絢芽は頷く。 「芹澤くんの作った曲、弾きたいの」 「……いつ消えるか、わからないんだろ?」 「いつ消えるかわかんないからよ」 「やった事もないのに、下手くそに決まってるじゃないか。出来るかどうかもわからないんだぞ?」 「それでも良いの。芹澤くんが最初に作った曲を、最後に弾きたいの」 二人は、しばらく無言で見つめ合った。やがて、空は諦めたように黙ったまま頷いた。 「約束よ」 絢芽は、ふわりと優しく微笑んだ。
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