第1章

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 次の日から、空は図書館に通い詰めた。 「空、今日どこか寄って行かないか?」 「悪い、ちょっと用事あるんだ。また今度な」 友達の誘いも断り、ただひたすら本を見ながら曲作りの勉強に没頭した。それもすべて、絢芽のためだ。志半ばで断たれた彼女のために、出来るだけの事をしてやりたかった。 「なぁ、空最近付き合い悪くないか?」 そんな友達の呟きにも耳を貸さず、目の前の目標に邁進した。  これが叶わぬ恋なのか、ただの同情なのかはわからない。だが、彼女のために何かしたい。その気持ちだけは、本物だった。曲が出来るまで、絢芽には会わないつもりだった。会う事に時間を割くより、早く曲を仕上げたかった。彼女が、消えてしまう前に……。  曲を作る約束をしてから、三ヶ月ほど経った。そろそろ寒さが厳しい季節になっていた。絢芽と初めて会った頃はまだ夏だったなと思いながら、空は一冊のノートを抱えて夜中の音楽室に向かった。聴こえるピアノの旋律。それは確かに、彼女の存在を教えてくれた。ドアを開けると、わかっていたかのように絢芽がこちらを見た。 「曲、出来た?」 にっこり微笑みながら問う絢芽に、空は持ってきたノートを差し出した。 「これ……」 絢芽がノートを開くと、曲のタイトルと共に手書きの楽譜があった。 「……弾いてみて、良い?」 遠慮がちに聞く絢芽に、空は頷いた。静かな音楽室に、ピアノの音が響く。お世辞にも、上手いとは言えない曲だった。所々音程は外すし、リズムもまちまち。それでも、絢芽は優しい瞳で楽譜を見つめピアノを弾く。空も、それを黙って聴いていた。
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