玄関先の品

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玄関先の品

 朝、家を出ようしたら、玄関先に一本の雨傘が置かれていた。  誰がどうしてここに置いたのかも判らない、見覚えのない雨傘。  今にも雨が降り出しそうな空模様なら、持ち歩いていた人が、何かの弾みでうっかり落としてしまったとかも考えられるけれど、空は爽快に晴れているし、今朝見たTVの天気予報でも、本日の降水確率はせいぜい10%程度で、雨傘の出番はなさそうだ。  もしかしたら、壊れた傘を誰かが人の家の玄関先に捨てていったのか? そうも考えたけれど、雨傘に異常は何一つない。さすがに新品ではなさそうだけれど、充分使える状態だ。  訳が判らなかったが、玄関先で考え込んでいる時間がなかったので、誰かの落とし物と強引に決定し、俺は傘をもう一度元の場所に置いて会社に向かった。  その日の帰り道。  バス停から自宅までの距離を、俺は全力疾走していた。  降水確率は僅か10%だったのに、午後になったらあれよあれよと空が曇り、夕方にはもう、止みそうにない本降りの雨が降っていたのだ。  天気予報の役に立たなさを呪いながら家に駆け込む。その際に少しだけ玄関周りを眺めたが、あの雨傘はどこにもなかった。  持ち主が現れたのか。あるいは誰か別の人間が拾ったのか。行く末は判らないけれど、確かに傘はなくなっていた。  それから数週間が経ったある日。  通勤前の玄関先に、今度は水筒が置かれていた。  よくあるステンレス製の水筒で、反射的に振ってみたら、中身が入っているらしく、ちゃぽちゃぽと音が聞こえた。  さすがにこれを捨てる人間はいないと思うので、多分、誰かが落としたんだろうとは思う。でもその割には、きちんと立てて置かれていたのが妙だ。  いたずら目的で置いて行ったのか? でも、この前の雨傘もそうだけれど、そんなことをする理由が判らない。  もしかしたら、中身を確かめるために蓋を開けると、強烈な悪臭が漂うとかか? だとしたら性質の悪いいたずらだけど、一応それが予測できる以上、中身なんて確かめようとは思わない。  前の時と一緒。今回も見つけた位置に戻して無視。  それを実行し、会社に向かった俺は、その日一日、やたとら水筒のことを思い返すことになった。
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