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リエティの横顔を見ながら思い出す あいつの エイプルの、言っていたことを 「お前が選んだのは私じゃないんだ リエティなんだよ」 ...そうなのか? 本当に、そうなのか...? だって俺は、やっとエイプルが手に入ると思っていた それを望んでいた 渇望していた でも、違うらしい ...あいつからすれば、違う 俺がエイプルに向けている感情は、家族としての愛 リエティに向けているこの感情は、俺が無意識的に望んでいる愛 確かそんな感じのことだったか、あいつが言っていたのは 思い出す あいつのあの時の、今まで見たこともなかったような苦しそうな顔 今にも泣き出しそうで、それを必死にこらえている、あの顔 怒っているような、悲しんでいるような顔 あと、声 震えていた、怒鳴り声 それが怒りのせいなのか、それともそれ以外の何かのせいなのかは分からない あいつはあの声で言おうとした 俺が誰を愛しているのかを その人の、名前を そしてその人物は間違いなく... 今目の前にいる、この女だ なんでエイプルに、俺でも分かりきっていない感情がわかる なんで俺の気持ちが、分かるんだ そんなの、おかしいだろ あいつは俺じゃないのに なんで知ってるなんて思える どうしてそれが間違いないと、思える? 確実だと、思えるんだ 思わずため息をついた 茶色い瞳が、俺を見た 「どうか...しましたか?」 目の前の女は、リエティはそういいながら首をかしげた 表情は少し不安げで、思わず笑みがこぼれた 大丈夫だ、心配ない、そんな顔をするな、そう思って 守らなければと、強く感じて 「少し仕事の考え事してただけだ、気にするな」 そう言って俺は、笑った
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