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教室の戸を開けたら、そこには。
真っ暗な穴があった。もはや目の前に在るものが穴なのか、教室だった空間そのものが穴なのか判別できないほどに大きな穴だった。暗闇だった。
すぐに、これはいけないと思い、戸に手をかけ廊下に戻ろうと思った。
が、そこにはもう戸がなかった。手をかけるべきものが存在しなかった。スカ、スカ、と何度か空振りした部分を見ると、そこももう闇だった。俺と鞄だけが存在する、大きな光のない空間。心当たりがない。闇に飲まれてしまったのだろうか。
そもそも教室に来て、何をしようと思っていたかも思い出せないことに気づいた。
背をキリキリと焼きこがすような恐怖心とか、突然起きた異変へと動揺のせいだとおもっていたけれど、たぶんそうではないらしい。いよいよあせる。本当に、どうしてここに来たのか思い出せない。
ふと身を見ると、制服を着ていた。白いシャツ、紺色のパンツ姿。学ランを着ていないから、季節は夏なんだろうけど、ここは全然、暑くない。暑くもないし、寒くもない。不思議だった。
幸いなことに腕時計は持っていたから、時間の感覚は無くさずに済んだ。変なところで冷静に考える自分が可笑しい。でも、可笑しく思えることにもほっとする。
そろそろ「教室」にきて、3時間がたつ。お腹空かないし、眠くないし、時間の感覚はあるしで、妙に不自由がない。座ったり、うろうろしたり(とはいえ暗闇で場所の感覚がないので、目印のかばんから離れて動き回りすぎると元の場所がわからなくなるのが怖い。)、適当に時間をつぶしいていると、向こうからおおい、と呼ぶ声がした。
「おおい、中島じゃないの。どうしたの、こんなところで。」
俺を呼んでいるようだった。俺の名前をそんなふうに呼ぶ、妙におっさんじみたやつと言えば、
「秋羽、秋羽か?」
懐かしい奴だった。ここで、会えるとは思ってなかった。
「おうよ、秋羽さんだよ。何してるの中島、こんなところで。」
動転して、同じ質問を繰り返させてしまった。
「こんなところで、何してるか?俺が知りたい。おまえは、ここがどこだか知ってるのか?」
まるでRPGのコマンド横に出てくる勇者の発言だ。俺が勇者なら、さしずめおまえは薬剤師(?)か占い師なのかな、秋羽。
「ここがどこかって、それはおまえ、闇だよ。闇以外なんて説明しようがある。闇じゃねえか、ん?」
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