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な?だろ?みたいな調子で聞いてくるが、一般的に言ってその説明では納得しづらいものがある。
「いやいや、闇だけど。具体的に、何県何市あたりの闇なのかなーって。帰るに帰れないから、これじゃ。」
「帰るに帰れないっておまえ、どこに帰るつもりだよ。ここだろ、いつもの場所じゃないか。」
意を決しての質問だった。こう帰ってくるのが怖かった。やっぱり、ここがどこかも思いだせないし、それだけじゃなく、これまでどうやって生きてきたか、ごっそり記憶が消えているようだ。消えてしまったのか、元からないものなのか、それもわからないけれど。
「…だぁよなぁ。」
そう、答えるしかなかった。
なんだかわからないけれど散歩に行くことになった。秋羽曰く、鞄を目印にしてそこで立っていてもたぶん変わらないとのことらしい。不自由のない不思議な世界だけど、一人より二人のが楽しかった。
「あらー!」
今度は女の子の声だった。
「ん?」
最初に気づいたのは、秋羽だった。
「なんか声聞こえんな。女の子の声だ。」
「言われてみれば、聞こえるな。」
「中島くぅん!あ、秋羽くんも!ここ、ここここ!」
ひらひらと、セーラー服の美少女が駆け寄ってくる。
「美沙!美沙じゃないか!」
「やっと気付いた、中島くん遅い!秋羽くんはサッサと気づいてたみたいだけど…。」
かわいい顔をして上目遣いでこちらをうかがう。膨れた頬の艶が眩しい。
「ごめんごめん。で、美沙はなにしてたの?」
「んー、中島君を待ってたの!」
「え!?」
「っていうのはさすがに嘘。靴、おっことしちゃって探してたの。中島君は?」
何かをかわいさにごまかされてる気もするけど、まぁいいか。
「や、なんていうか、秋葉と散歩?みたいな…。」
「そう、俺と中島君はー、デートをしていたんだよ、うふふ」
気持ちの悪い冗談だな、と思いつつ、秋羽が言うに任せた。これ以上は面倒そうだ。
美沙と秋羽が、言葉を交わすのを見ていると、そうだそうだと思いだしたように美沙がくるり踵をひるがえす。
「ちなみに、いま何時なの?中島くんのそれ、時計だよね。見せて見せて。」
「いいけど、美沙は時計持ってないの?それ、腕についてるじゃない。」
「もう、中島くん。美沙の時計が動くわけないじゃない。中島くんのを見せて。」
「あぁ、そうか。ほい。」
手首をそのまま美沙のほうに向ける。
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