第1章

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「なんだかんだ、もうこんな時間なのかぁ。ほら、中島くん、行かないと。」 なんの時間が待っているのかわからないけれど、彼女にとっては「もう」こんな時間なのか。「闇」にも、時間は必要な単位らしい。 「えっと。秋羽もいることだしさ、美沙も一緒に散歩しようよ。一人でここで靴探してても、正直見つかんないと思うしさ。それなら一緒にもっと話そう。」 秋羽と二人も楽しいけれど、ずっといれば飽きてくるし、何よりちょっと気持ち悪い。一人、たとえば美沙がいてくれると、ちょうどいいんだけどなぁ、なんて思ったんが正直なところだった。 「んー、でも美沙は行くわけにはいかないかなぁ。」 悲しそうな笑顔だった。 「靴、探さないと、変だしさ。秋羽くんがいるからいいでしょ?」 気持が見透かされている。てれ臭いけど、ここまで来たら一緒だ。 「いいよ、なんなら俺の靴貸すから。ここ、何にも危険物落ちてないし、俺は人の目は気にならない。しかもここには全然、人がいないじゃないか。」 「俺もこいつの相手飽きちゃったし、美沙きてよ。」 意味ありげにウィンクなんてして見せる秋羽は気持ち悪かったけど、その一言で弾みがついたらしく、美沙とも三人で散歩することになった。 「あでで」 「ん?」 三人で話していると、頭皮(髪の毛はもちろんある。)に冷たいものを感じた。 ぽつつつつ 「あでででで」 「どうしたの、中島くん。変な声出しちゃって?。」 「生理だから、イライラしてるのよ、ほっとこう美沙。」 気持ちい悪い秋羽はさておき、ここでは雨は降るのかと少し驚きだった。だって雲もないし、水もないし。 「いや、雨が。」 「あめ?」 きゅるん、と首をかしげて見る美沙の瞳に影がかかる。まるで、さっき誘った時のような悲しげな憂いも。 「雨が頭皮に当たったんだ。冷たくて声が出てしまった。ここでは、雨は降るの?」 「雨?降るのか?」 と、秋羽まで不思議そうに首意をかしげる。 「美沙、知らないな。」 「じゃぁ俺も知らない。中島、まさか変な薬とか」 「やってないよ。なんかあたった気がしただけなんだ。雨じゃないかもしれない。」 何もないのに何でもあるこの世界で、雨だろうとそうでなかろうと、そこに存在すること自体、不思議の種だ。何が存在し、何が存在しないのか、わからないことばかりだけれど、わからなことになれていく自分もいる。不思議な気分だった。 「あ、見えた見えた。」
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