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「見えたって?ひょっとして出口?教室のドア、あんなとこにあるのか。」
「教室?」
美沙が、「素」の声を出す。教室?…どうして?どうやって?そんなふうに聞きたげな声だった。
「教室だ。美沙も秋羽も、教室から来たのだと思ってたのだけど、違うの?二人はどの入口から来たの?入口が違ったら、出口も違うの?」
二人は今までになく驚いたことを隠せていなかった。ここにきて初めて、彼らの素に触れた気分だった。
心の中では、今まで抑えていた分、出口が見えた安心からか、問いが噴出した。矢継ぎ早にあふれる。二人は本当はなにをしていたの。何を知っているの。どうして美沙の時計は動かないの。どうして秋羽と美沙の名前は思い出せたの。どうして二人と過ごした思い出がないの。ふたりはだれ。どうして。どうして。
でもきけなかった。もう雨のようなものは当たらなかったけど、二人は泣いていたし、聞いて答えが返ってくるとも思えなかった。ここではないどこかで、答えを否が応にも突き付けらる。そんな気がした。
「どうして泣くの、美沙。秋羽まで泣くなんて気持ち悪い。やめろよ、なぁ。」
「そっか、そんなふうに入って来たんだね。」
涙を拭いて、声は上ずっていて、でも聞き取りやすい声だった。美沙の声だった。
「美沙も、秋羽くんも、入口なんてないし、出口なんてないよ。『最初』からここにいて、あなたがここから出るときに、この『闇』と消えるよ。この『闇』に名前はつけられないけれど、中島くんには出口と入口があるよ。ちゃんと教えなくてごめんね。言ったら、中島くん、出ないと思ったから。」
「全然わからないって顔してるな。まぁ、わからないね。わからないようにしたんだ、俺たちが。美沙も言ったけど、おまえ、出ないだろ。本当の事言ったら。一度はいる事が出来たって、闇ってのはな、出ないといけないもんなんだ。残って、『あっち』が果てるのを待つこともあるけど、おまえはそれじゃいやだ。俺たちがいやだ。」
「何を言って…あっつ!なんだ、こ、れ」
急に焼かれたような痛みが脇腹に走って、手で押さえたら血がついていた。それを見たらびっくりしてしまって声が止まった。鋭い無数の痛みが、じわじわと鈍く全身に広がっていく。制服が赤くなる。言葉が発するのが、どんどん難しくなっていった。
「お、帰る準備が進んでるな。よし。俺たちが扉まで運んでやるから、しっかりな。」
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