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教室の戸を開けたら、そこには大草原が広がっていた。
思わず、惚けてしまう。何処までも続く緑、青い空に輝く太陽。爽やかな風が吹き抜けた。
「え?」
ようやく出たのは、素っ頓狂な声だ。
だって、そうだろう。戸を開けたら大草原が広がっていたとか。普通ありえないじゃないか。
すると、あれか、夢を見ているということだろうか。さっきまでは普通に校舎内だったじゃない、それだのに教室が大草原って、普通に考えたってあり得るわけがない。
「……よし」
心を決め、深呼吸を一つ。それから戸をゆっくりと閉めた。
戸の上方を四角く切り取った窓から、そっと中を覗き込む。
……こう見ると問題はない。クラスメイトが中で笑っているのが見える。
左右を見回す。こちらも正常である。廊下と壁沿いに並ぶ教室の戸、少し離れたところの階段も登校中の生徒で溢れていた。廊下の窓の向こう朝練終わりの運動部が笑っていて、草原なんて何処にも見当たらなかった。
「……気のせいか」
ほっと息をつく。
最近寝不足ではあるから、大方疲れがドッと出てしまったのだろう。3階の教室がいきなり大草原と化すわけがない。あまりのバカバカしさに思わず笑いを零してしまった。
「おーい、何やってんだ?ンなところで」
「あ、晶。おはよ」
ふ、と振り返れば親友の姿がすぐ後方にあった。ここまで近づくまで気づけないとは、思っていたよりも疲れているみたいだ。
「大丈夫か?ぼーっと突っ立って」
「大丈夫だよ。少し寝不足が祟ってるみたいだけど」
「ならいいけどよ。さっさと入ろうぜ」
彼は戸に手をかけた。あ、と小さい声が漏れる。開けてはいけないわけではない。あれは見間違いだ。だけどーー。
彼は訝しげに眉を顰めたが、促すようにこちらの腕を引っ張る。抗えぬまま、再び緑が目に入ってきた。
「晶、待ってーー」
開け放たれた戸から、まばゆい輝きが僕だけを包む。
一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、いつもの教室と晶の背中が見える。引いてもらっていた手はすでに離され、もがいたところで宙をかくだけ。
慌てて廊下に戻ろうと、後ろ足を踏み出したところで僕の意識は暗転した。
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