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「コトバ、ワカル?アナタ、聞コエ……てるかしら?」
僕は言葉を失った。ショックは勿論あるーー教室の戸の向こうが草原だったのも、剣を突きつけられたのも、目の前にいる人物の髪が見たこともない程美しい銀色なのも、全てに衝撃を受けた。
だけど、どうしてだろう。彼女の姿を見て、安心する自分がいた。人に会えたのが、そんなにも嬉しかったのだろうか。安心しようが、相も変わらず剣を突きつけられているけれど。
少女の言葉は最初こそ鈍って聞こえたが、段々と聞きなれた響きを取って行った。何度か、彼女が言葉を発することで、ようやく聞きなれた響きへと落ち着く。
「ねぇ、答えられなくても、頷くとかなにかしなさいよ。アリーク語がダメならこっちかしら?×××××?」
訳がわからないが、取り敢えず返す。あちらの言葉がわかるなら、自分の言葉も通じるはずだ。
「……に、日本語なら、分かる」
「なんだ、喋れるじゃない」
やはり、通じた。だが、彼女は眉根を寄せると、低い声で続けた。
「生憎、そのニホンゴってやつは知らないわ。聞いたこともないけれど……今、通じてる以上アリーク語でいいわよね」
「アリー?」
訳のわからない言葉が出てきて、僕はぎょっとした。その様子に、少女も僅かながらに動揺を見せる。
「アリーク語よ。ここにいて、私と話せてるのなら習ったんでしょう?」
「い、いや、英語と日本語しか習ってなくて……」
「……まさか」
そこまで問答したところで、ようやく剣は下ろされた。彼女の緋色の瞳が舐めるように僕を観察した。
「そういえば、名前を聞いていなかったわね」
「あ、朝日夕夜だよ」
「ユウヤ……ここいらの名前じゃない、か。私はラウカ。ひとまず、剣を向けたことへの謝罪を、ここに」
少女ーーラウカは頭をぺこりと下げた。腰に帯びた鞘に、剣を納める。先程の剣呑な雰囲気は掻き消えて、漸く僕は息をついた。妙な安心感はあったものの、刃物を突きつけられていては意味がない。
「……剣を下ろしてくれたんだから、それでいい」
その言葉で顔を上げたラウカは、薄く微笑んでいた。珍しいものを見つけたかのように、目を輝かせて。
「ねぇ、ユウヤ。貴女は何か困っているのではないかしら?」
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