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連れて行かれたのは、古びた小屋だった。思わず目を見張る。
煉瓦には蔦が這い、そこに幻想的な色合いの花が彩りを添えている。窓枠には、美しいステンドグラスが嵌められていて、きらきらとした光を零していた。
「入って」
ラウカが扉を開けてくれる。
ーーもしかして、ここは外国かな。
そんな僕の予想なんてなんのその、僕が家に踏み入れるなり、ラウカが手を扉に向けた。
「対魔結界展開ーー目標、捕捉。『遮断』」
凛とした声が響いて、緋色の輝きが瞳から部屋全体へと広がるのが分かった。
「結界……だって?」
なんだ、それは。
いや、意味はもちろん分かる。小説でも漫画でも、よく見る言葉だから。だが、ここは現実だ。決してフィクションの中ではない。僕は二次元キャラクターになった覚えはないのだから。
「へぇ、結界一つで驚くのね」
唖然とする僕に、彼女は薄く微笑んだ。
「さてと、改めて自己紹介するわ。私はラウカ・リーリア。リーリア家の次女、イアルディアの民、アリーク国の生まれよ」
イアルディア。
先ほども彼女の口から出た言葉だ。イアルディアに、アリーク国。地理は得意ではないが、聞き覚えがない。それに、あったところで。
ーー教室の戸開けて、他の国に瞬間移動するなんて、ないよね。
実際、今知らない土地にいるのは確かだけれど。
「貴女は?」
「朝日夕夜だよ。こんな髪型だし、喋りも女らしくないけど、一応アサヒ家の長女で……イアルディアとかアリーク国は生憎知らないけど……その、地球の日本って国に住んでた」
彼女の真似をして答える。
地球だとか日本だとかは、僕なりに場を和らげようとして口にした冗談のつもりだった。そんなの当たり前でしょう、面白くない冗談ね、なんて言って欲しかった。
「そう、チキュウ。言い方からするに、きっとそれが私たちで言うイアルディアなのね」
「ーーは?」
「私の住むこの世界ーー惑星かしら?それを、イアルディアと呼ぶの。貴女の住んでた世界がチキュウと言うのでしょう?」
「あ、ああ」
返ってきた言葉は、僕の期待なんて容易く打ち砕く。
ーー別の惑星?それとも、異世界ってことか?
ラウカは、戸惑う僕なんて知ったことなしに言葉を続ける。
「イアルディアには、旅人の伝説があるの。今の今まで嘘っぱちだと思ってたわ」
「旅、人……?」
「貴女は、予期せずここに来てしまったんじゃない?」
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