4人が本棚に入れています
本棚に追加
教室の戸を開けたら、そこには、無限に広がる大草原があった。目の前で消えた、友の背中。僕を包んだ、あの強烈な光。
「……そう、僕はいつも通りに教室にいたんだ」
僕の答えに、ラウカは微笑んだ。
「たまに、貴女みたいな人が現れるの。住んでいた世界はチキュウだとか、もっとややこしい名前のところだとか、様々。共通してるのは、皆がいきなり見知らぬ異世界へと飛ばされたことだけ」
まるで、貴女みたいね?と少女は呟いた。小さいその声が、いやに響く。
ーーそんな、馬鹿な。僕は、本当に異世界に来てしまった?
「よ、よく出来た話だよな。あ、そうだ。部分的な記憶喪失だとか……実は夢、だとか……」
認められなくて、認めたくなくて、ぐるぐるする頭から必死に言葉を選んで紡ぐ。
「大体異世界でも他の地域でも、なんで日本語圏なんだよ?」
「……その点に関しては、反論させて頂戴な。私はそのニホンゴとか言うものは知らない。最初から、アリーク語でしか話していない」
ラウカは銀髪を払いのけ、憮然とした顔になる。
「否定するのもいいけれど、現実を見なさい。貴女がどう言おうと、ここはイアルディア。この世界で私は、魔法と剣とで今日まで生き抜いて来た」
「そんなこと言われたって……わかるわけない、じゃんか……っ」
ーーなんだよ、それ。
僕は尻餅をつく。空に輝く太陽も、通り抜ける風も、目の前に立つ少女も。全てがあまりに鮮明に、僕の目に飛び込んできて。
ーー異世界からなんて、どう帰ればいいんだよ……っ。
あり得ないだとか、そう言って済めばいいのに。悪い夢ならいいのに。
「……泣きたいなら、落ち着くまで待つわ」
ーーあぁ、だめだ。
無造作に頭に置かれた手は、暖かくて。その温度が、今が現実なのだと告げていて。
隣で、ラウカが軽く息を吸った。音外れに奏でられるのは、先程話に出た、旅人の伝説だろうか。
最初のコメントを投稿しよう!