第一章 始まりのイベント

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1 北沢仁助は(周囲から見たら)身長が低いといったところしか特筆する点がない少年だった。 高二の勉強についていくのがやっとで、持久走大会では真ん中より少し下くらいの順位で、これまで告白なんてされたことはなくて。 そんな一般的な少年であったが……隣に住む幼馴染みの少女は逆に特筆すべき点だらけだったりする。 テストでは常に一番、柔道・剣道・空手などの全国大会で優勝、これまで告白された回数は数えきれないほど。 とにかく完璧が似合う少女なのだ。 一点、欠点と呼ぶとするなら……、 「ご主人様。朝ですよ」 「ふぁ……。今日もかー。なあ、毎度毎度幼馴染みのメイドの真似事に付き合わされる俺の身にもなってくれよ」 朝。 北沢仁助の自室のベッドのそばにそれはもう完璧な従僕の見本みたいなフォームで腰かける幼馴染みから起こされた少年は呆れたように息を吐く。 ただ一つの欠点。 それは北沢仁助へのこの態度だろう。 いつからだったか。確か中二の頃にはもうこんな感じだったろう。 (……小学校の低学年くらいまでは俺の手を引っ張って遊びまくるお転婆だったっていうのに……) なんでこうなった? とも思うが、言っても聞かないのは知っている。それはもう思い知っている。 この頑固者の負けず嫌いと長年幼馴染みやってきたのだ。こういう時は諦めるまで放っておくに限る。 ……もう何年もこんなんだが。 「眠い……」 「ゲームのしすぎですよ、ご主人様」 「そうだなー」 「いくら唯一私に勝てる分野とはいえ、そこまで腕を磨かぬともいいですよ。例えどれだけ劣っていようとも、ご主人様は私のご主人様なのですから」 「朝っぱらからナチュラルに見下すか、普通?」 「事実を申し上げただけですが?」 「正体知ってる身としてはお前が学校で一番モテてるのが信じられないんだよなあ」 「外面だけを見ればモテる要素だらけですので。……内面を知って、それでも突き放さないご主人様は異常だとは思いますが」 「もう慣れた」 適当に吐き捨て、パジャマから学ランに着替える。もちろん自然な動作で手伝おうとする馬鹿を追い出してだ(ここだけはいくら頑固者が相手でも譲れない)。
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