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「くくくっ・・・」
懐かしく甘酸っぱい青春という産物を思い出して、たまらず笑い声をあげていた。
その俺の声に愛おしい人が身じろいで、薄く目を開けた。
「マサル?どうした?風邪ひくぞ、そんな恰好で・・」
あ、やばっ、俺、裸のままだったわ。俺は、いそいそとカーテンの裏に体を隠した。
「おこしちゃった?ごめんね」
「楽しそうだな、なに笑ってたんだ?」
「ふふっ、俺の初恋思い出してたの。俺さ、10年前の今日、初恋が実って、死んだかと思ったら、盲腸だったんだよ」
「ははっ、相変わらずお前の言うことは、わけわかんないな。
10年前の今日って・・。9月19日か?」
彼は時計を確認しつつ、体を起こした。
「そう、そのころさ、正岡子規に嵌ってて、俺の命日も正岡子規と一緒だ。だから忘れないでくれ。って初恋相手に言ったんだよ」
「あぁ・・糸瓜忌か。糸瓜咲て痰のつまりし仏かな・・だっけか」
「知ってるの?」
「あぁ、この前特集やってたんだよ。命日が近かったからだろうな・・」
「そう、それ。死ぬかと思ったら、結局盲腸だったんだよ。
だけどさ、それからかな、なんか世界が変わったんだよな。
俺を好きだっていう人が現れたり、死ぬと思ったのに生きてたりさ。
生きる希望が持てた。っていうのかな。
だからそれからは正岡子規は読んでないんだ。なんか、悪い気がして。
俺、生き残っちゃったなぁ。って」
彼は、うつむいている俺に、来いよって指でこっちこっちと呼んだ。
俺がその通りにベッドに近づくと、身を乗り出して、俺の腰を両手でがっちり押さえこんだ。
「うわぁ、どこ見て・・」
慌てる俺をよそに、俺の下半身をじぃーと見つめて
「おぉ、これか。お前色白いから、分かりにくいな」
そんな声と共に、足の付け根の上あたり。手術のあとを、ぺろりと舐めた。
「うあぁあ」
「ふふふっ、マサル、それで初恋の彼が何とかって話、もう少し聞かせろよ・・ほら」
盲腸の傷跡を舐めながら話すから、ますますゾクゾクが止まらない・・。
あぁ~正岡子規の糸瓜の句が、ヘチマになって、言わなくてもいいこと口走りそう・・。
俺はたまらず、彼を押し倒してその首筋に顔をうずめた。
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