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ぶるりと震えて、ふと目が覚めた。
いつもより長く暑かった残暑の気配は消えて、肌寒いくらいだ。
どこからかコオロギが鳴いているのが聞こえる。
ああ、秋なんだぁ・・・。
俺は、隣の愛しい人をおこさないように、そっとベッドを抜け出した。
カーテンを揺らしている窓に近寄り、空を見上げた。
まだ夜明けには程遠そうだ。
真ん丸の月がはっきりと見える。
ふとベッドの横に置いてある時計を眺めた。
あぁ今日は9月19日かぁ・・。
そっか、もう、あれから10年か・・とあの日を思い返した。
あのころの俺は、自分の性について悩み始めたところで、自分と他人との違いをいちいち比べては落ち込んでいた。
そもそも、体が弱く、学校は休みがちだった。それに加えて、人見知りをする性格。
とてもじゃないが、休み時間に友達とわいわいやることなんて出来なくて、いつも本ばかり読んでいた。
読む本だって、こんな性格だから、普通の男子が読むようなものとは違っていた。
ハッピーエンドの話には、胡散臭さを感じていたし、自分は他人とは違う。自分は粗悪品で、すぐに死んでしまうだろうと自棄になっていた。
そのころ愛読していた本は、石川啄木とか樋口一葉とか、若くして病死してしまう作家が多かったのも、理由の一つかもしれない。そして、当時もっとも嵌っていたのが正岡子規。
正岡子規の闘病生活は、自分の体の弱さとどこか重なるところがあって、床に伏せながらも強く生きようとする彼の生への執着が心地よかった。
ある日、いつものように放課後の図書室で本を読んでいる俺を、誰かが呼びかけた。
「ねえ、相原。相原ユウ?マサル?どっち?」
「マサルだよ。何か用?」
俺は相当むっとして顔をあげた。
俺の名前は、相原優。優しいと書いてマサルと読む。名前でからかわれるのはいつもの事だが、相手の顔を見た瞬間、心臓が跳ね返った。
谷木正春、俺の初恋。
今年、中学三年でクラスが一緒になって、初めてその存在を知った。
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