転がり落ちた死体

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  「先生、ちょっと失礼します」  トイレに行っていた深鈴が帰ってきたようだった。  失礼します、と言えば聞こえはいいが、退け、と言っているのだろう、と思いながら、晴比古は片眼を開け、己の脚を指差す。 「飛び越えてけ」  物臭なんだから、といつもの愚痴を吐きながら、ひょいと長い脚で深鈴が跨いでいく。  結構な距離を歩いたり、山を登ったりすることもあるから、パンツで来いというのに、いつも反抗的にミニスカートだ。  肉体労働はしない、と主張しているのかもしれないが。 「はい」 と缶コーヒーの缶を寄越しながら、深鈴は文句をたれる。 「先生はほんとに自堕落ですね。  顔がよくなかったら、殺してますよ」  なんだそりゃ、と思いながら、晴比古は、冷たい缶の蓋を開けた。
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