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鏡の下はあたりと変わらない白い地面だった。
そのことを知って、私は酷く落胆した。
せっかくの水溜りを、つまらない想いでなくしてしまったのだから。
(……想い?)
まさか、この鏡は、私が水面を鏡のようだと思ったから鏡になったというのか?
そんな馬鹿なと思う反面、鏡に変わったタイミングを思い起こせば、やはりそうとしか思えなかった。
(そうだ!)
私は、一心に考えた。
瞳を閉じ、両手を組んで…
元の世界に戻りたい!
おかしなこの場所から抜け出したい!と、一心不乱に願いをかけた。
想いが現実化するのなら、そう願えば帰れる筈だ!
期待を込め、緊張しながらゆっくりと目を開く。
……しかし、そこは先程とは何の変化もなかった。
ただ、白だけが広がる世界だったのだ。
自嘲めいた笑いが漏れた。
私は一体何をやってるんだ…
空しさと悲しさと切なさが私の胸の中で渦を巻いて溶け合った。
割れた鏡に映った私の顔は、一気に年を取ったように見えた。
老人のような自分の顔と対峙しているうちに、私の脳裏にまた馬鹿馬鹿しい想像が浮かび上がった。
たった今、希望が打ち砕かれたばかりだというのに、もしかしたら、この鏡を水面だと思えば、再び水溜りが現れるのではないか…
そんなことを思い付いてしまったのだ。
私は、早速、割れた鏡を並べて地面に置き、水面のようだと考えた。
だが、やはり変化はなかった。
それもそのはず。
どう見てもそれは割れた鏡で、水面になど思えなかったのだから…
情けない気持ちで、私は片方の鏡をもう片方の上に重ねた。
愚かな自分の顔を見たくなかったのだ。
絶望的な気持ちだった。
その時、私は目の端に微かに動くものを感じた。
合わせた鏡の間から白い煙のようなものがうっすらと立ち昇っていたのだ。
においはない。
鏡に手を当てても、熱さもないことから、燃えているのではなさそうだった。
ただ、なにか意味があるような気がして、私は重ねた上の鏡を持ち上げた。
その瞬間、煙は消えた。
もう一度重ねると、再び煙が昇り始めた。
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