タコの恋

2/6
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「あ・・ヤギだ」 少し丘をあがったところに、白い大きなヤギが草をむしゃむしゃと食べているのが見えた。 近づいてよく見ると、ヤギは繋がれていて、ヤギの側にはおんぼろの掘っ立て小屋が立っていた。掘っ立て小屋の入口には木の看板がくっついていて、そこには墨で書かれたような質感で『ハイジ壮』とあった。 え!?ここ誰か住んでんの?? 第一印象はこれだった。 だって・・・・ホントにおんぼろで・・いや・・まあ・・住民には申し訳ないんだけど・・。 確かに、窓ガラスが割れてるとか、蜘蛛の巣で覆われてるとか・・そういうわけじゃなくて・・なんとも修飾しづらいんだけど・・。 とにかくおんぼろなんだよなあ・・。 私がそのハイジ壮なる掘っ立て小屋をしげしげと眺めていると、近くから 「あぶない!!」 ガシッツ!! 声と同時に背中に衝撃と激痛が走った。 「くっつ、いった・・・・」 私は、目の前の草むらに倒されて、草の中に顔をうずめた。 「危ないって!早く逃げろ」 今度はもっと近くから声がする。 「え?なに?なに?」 寝転んだままキョロキョロすると、後ろの生き物が視界に入った。 はっと、振り向くと、あの白い生き物が、自慢の角を私に向けて今まさに追撃しようと 二本足で立ちあがっているところだった。 「ひぃぃぃぃ」 いや・・声しか出ませんって・・ただでさえ寝っころがってんのに・・。  しかも腰と背中に激痛があって、とっさに逃げられるわけないじゃんか!  誰に言い訳しているのかわからないけど、その巨大なヤギの姿、しかも超攻撃態勢みたら、体が固まって変な声が漏れるだけだ。  もうダメだ!  目をつぶって、固まった私の腕をすごい力がぐうーんと引っ張って、ヤギの攻撃は空振りに終わった。  ヤギは、空振りに終わると、何事もなかったかのようにまた草をむしゃむしゃ食べていた。 「なに?なんなの??」  唖然とする私の頭上から 「ユキは、えらい凶暴なやつだからな・・絶対背中を向けたらダメなんだよ。 あ・・大丈夫か?」  膝に手をついて覗き込んできた人は、Tシャツにジャージ姿で長靴を履いているおじさん?いや・・おじさんじゃないな・・年上の男の人だった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!