タコの恋

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「はい・・助かりました・・ありがとうございました・・」  立ち上がろうとしたけど、腰が抜けてうまく立てない・・。  とりあえず四つん這いのままその男の人を見上げた。 「くくくっ・・腰ぬけた?」  笑いながら差し出してくれたその手は、大きくてごつごつしていて、今まで見たこともないような働く男の手だった。 私、波野妙子、今この瞬間、恋に落ちた。18歳の春だった。 *****  今日から大学生!  私は、アパートから自転車を引っ張り出した。  先週、ここ北海道糸波町に引っ越してきて、今日から糸波農業大学の農業学部1年生!  昨日の男性とは、私がやっとこ起き上れるようになったところで、お礼を言って別れた。  彼の名前を聞くと、同じ農業学部の3年生、塚田智晴さんという。  てっきり大学の職員かと思ったから、学生だと聞いて驚いた。  なんで、あんな所に住んでいるかというと、大学内の農場で働きながら、奨学金の返金をする生徒に優遇される住居らしい。  なんでも家賃が馬鹿安なんだとか・・・。  まあ、あんだけのオンボロじゃあ、安いだろうけど・・・。  別れ際、アドレスを聞いたりするのは、あからさまに思えて 「また来てもいいですか?」  なんて、聞いちゃったけど。  これも、あからさまだよなぁ・・と思いつつ、聞かずにはいられなかった。  塚田先輩は、夕日を背に二カッと笑った。 「いつでも遊びにおいで。ただし、ユキには背中を見せない事!」  汚れたジャージに長靴姿なんて、ダッサダッサのはずなのに、恋は盲目だ! すごくすごく、恰好良く見えた。 ~~~  1年生は座学が多い。  あぁ~塚田先輩に会いたいなあ・・・ハイジ壮に行ってみようかな・・。  ぼんやり考えていた私だったけど、思わぬところにチャンスは転がっていた。  次の授業は、植物学の実習で、今日はヘチマの棚作りだった。  植物学の山本教授はヘチマ、ウリ科植物の世界的権威だそうだ。  ヘチマって自家和合成植物といって、同じ株の花同士で受粉できる植物だから、栽培も楽でデーターが取りやすいらしい。  1年の植物学では、ヘチマを栽培、収穫、分析するという話。  私たちは、そんな説明を簡単に聞いて、作業着に着替え農場へ向かった。    
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