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私は、恥ずかしくて告白どころじゃなくなってしまった。
でも、先輩との距離が近くなったような気がして嬉しかった。
告白はできなかったけど、こうして仲良くなれただけで、今は満足だ!
この日を境に私は、授業が早く終わった時は、ユキの綱を緩めたり、移動したりした。
時々、ばったり先輩に会ったりもして、そんな時は勉強を教わったり、お茶をもらったり・・ゆっくりと仲良くなっていった。
そして、そんな日常が続いたある日。
その日は、長い夏休みが終わる、待ちに待った日だった。
先輩は、夏休みはずっと農家で住み込みのバイトがあって、長いこと留守にしていた。
だけど、今日あたり帰って来ているはず。私はそわそわした気持ちになって、夏休み中に旅行したお土産を持ってあの丘を登った。
あ・・ユキがいる。そして、ユキの綱を先輩が移動している姿が見えた。
やった~!やっぱり帰って来ていた。
「せ、んぱー・・・・ぃ」
声を掛けようとして、驚きのあまり、声が途切れた。
先輩は誰かに声を掛けられて後ろを振り向き、その瞬間、ユキが先輩に向かって二本足で立ち上がっていた。
その先輩を呼んだであろう人物が先輩の腕を引っ張ったけど、先輩は、その人物と一緒に倒れ込んだ。
先輩?先輩!!震える足を叱咤して、急いで丘を駆け上がった。
丘の上に着くと、先輩は一緒に倒れ込んだ、クマみたいな大男に潰されていた。
先輩が潰されて・・いや、違う・・。
呆然と立ちすくむ私の目の前で、二人の男性は抱き合いながら、無我夢中で互いの唇を貪りあっていた。
私がようやっと動く足を、後ろに引いて回れ右をしたとき、先輩の
「あぁぁ。ダメ・・」
聞いたこともない色っぽい吐息が背中に突き刺さった。
丘を駆け下りた私は、空を見上げた。
夕暮れに染まるラベンダー色の向こうに、大雪山の頭がうっすらと白くなっているのが見えた。
「秋だなぁ~」
私、波野妙子、一つの恋が終わった。18歳の秋だった。
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