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「アラステア、諦めちゃいけない!
なんとか考えるんだ。
こっちの世界に戻れる方法がきっとあるはずだ。」
「……それは無理だ。
さっきも言った通り、僕はレオナールが全力で鏡にぶつかるのを見た。
何度体当たりしようと、鏡はびくともしない。」
「だけど、君はそっちに行けたんだ。
それなら、出てくることだってきっと……」
「……入るのは簡単でも、一度入ったら出られない罠に迷い込んでしまったような気がするよ。
フィリスという餌につられてね…」
アラステアは自嘲めいた笑みを浮かべた。
「アラステア!!
君は今ここがどうなってるのか、わかってるのか?
君のこの屋敷や財産を自分のものにしようと、大勢の人が集まってる。
誰が、相続することになるのかはわからないけど、そうなれば、僕はこんな風に気楽にここに来られることは出来なくなるかもしれない。
それに、その誰かが鏡を売り払ったり、壊してしまったら、君はどうなるんだ?」
「……さぁ……」
「さぁ?真面目に考えろよ!
アラステア…それじゃあ、僕はどうなるんだ?
鏡が売りに出されても、僕にはこんな高い鏡は買い戻せない。
僕は鏡の中に君がいることを知っていながら何も出来ず、誰かにそのことを話すことすら出来ず……
そんな僕の気持ちはどうなる!!」
止まらない涙に唇を噛みしめ、激しい憤りに身を震わせるスコットに、アラステアは言葉を失った。
「アラステア…何とか言えよ!」
「……僕のことなんか忘れてくれれば良い。」
絞り出すような小さな声で、アラステアは呟いた。
「君は……君はそんな風に考えていたのか……
そんなことが出来るくらいなら、僕はこんなに苦しまないさ!」
スコットは激しい剣幕で壁を叩き、俯いていたアラステアは何も言わず突然立ち上がった。
「アラステア…?」
アラステアは何も言わず、スコットに背を向けた。
「アラステア、どこに行くんだ?
話はまだ終わってない…!」
スコットの声にも振り返ることなく、アラステアは扉に向かって歩き続ける。
「アラステアーー!」
血を吐くようなスコットの絶叫が、広い地下室に虚しく響き渡った。
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