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レオナールは、居間の窓からぼんやりと外をみつめていた。
窓の外は鉛色の空…
天気さえも、レオナールの意のままに出来るというのに、彼は澄み切った空よりもこういう空の色を好んでいた。
「レオナール…良かったら、お茶を一杯いただけないかな?」
「あぁ、お安い御用だ。」
レオナールがそう言うと、テーブルの上には温かな湯気の立ち上るお茶が現れた。
「相変わらず、準備が早いね。
うちにも君みたいな使用人がいてくれたら助かるのだけれど……」
「その代わり、給金は高いぞ。」
二人は軽口を叩きながら、今出て来たばかりのお茶をすすった。
「私は、酒の方が良いのだが…」
「あいにくと僕は下戸でね。」
レオナールは、わずかに口端を上げた。
「……どうした?
何か、困り事か?」
「……困り事って程じゃないんだけど……
ここから出られる方法なんて、あるのかな?」
「戻りたくなったのか?」
「……そういうわけじゃないんだけど……やっておくべき事を思い出したんだ。」
「何だ?」
「うん…こう見えても僕はそれなりに資産を持ってる。
僕がいなくなったら、それを目当てに親戚達が集まって来ると思うんだ。
だから、僕の資産はすべてスコットに譲るって…それを認めておきたいと思ってね…」
レオナールはアラステアをみつめながら、ゆっくりとお茶をすすった。
「お前は、私が好んでこんな所にいると思っているのか?」
「ここがそれほど悪い場所だとは思わないよ。
ここでは何もかも、君の意のままに出来るじゃないか。
言ってみれば、君は神のような存在だ。」
レオナールは、アラステアの言葉に失笑する。
「私は神ではない。
ただの囚人だ。
どれ程焦がれようと、この世界から出られることのない惨めな囚人だ。」
「……ここから出る方法はない…と?」
「あるのなら、私はこんな所にはいない。」
「……そう。」
アラステアは、カップに残ったお茶を飲み干した。
「ご馳走様。
この次は、オレンジのカリソンもお願いするよ。」
そう言うと、アラステアは居間を後にした。
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