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「……無駄なことはするな。」
「何のこと?
僕は…ただ…運動をしてるだけだよ。」
鏡の前に寝転がったアラステアは、息を整えながら、そう答えた。
「運動か…
それなら、もっと別の方法があるのではないか?
そんな運動では、いつか私のように肩の骨を折ってしまうぞ。」
「僕は、君みたいに逞しくないし、足も速くないから、そこまでのダメージは受けないよ。」
アラステアはゆっくりと立ち上がる。
「まだ続けるつもりか?」
「なんなら君も一緒にやるかい?」
「私はごめんだな。」
「そう…じゃあ、僕は自由にやらせてもらうよ。」
アラステアは部屋の真ん中あたりから助走をつけ、思いっきり鏡にぶつかった。
彼の顔が苦痛に歪み、華奢なその身体は、もんどりうってころころと毬のように無様に転がる。
レオナールは眉間に皺を寄せ、アラステアから視線を逸らせた。
「いい加減にしておけ。
身体がバラバラになっても知らんぞ。」
「その時は君がうまくくっつけてよ。」
レオナールは、不快感を顕わにし、そのまま部屋を出て行った。
*
それからも、アラステアは幾度も幾度も、とりつかれたように鏡に突進した。
アラステアの肩は腫れあがり、酷い熱を発した。
それでも、アラステアは、その行為をやめようとはしなかった。
しかし、そんなことが長く続くはずはなかった。
ある時、疲れ果てた彼の足はもつれ、鏡にぶつかる前にくずおれた。
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