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「おまえは本当に強情だな。」
レオナールは、アラステアをひょいと抱き上げ、長椅子の上にそっと寝かせた。
「……どうしても戻りたいのか?」
「理由は前に言っただろ?」
「スコットは、お前の財産等欲しがらないだろうがな。」
「それだけじゃない。
僕は、この寝巻きとガウンしかないからね。」
「そんなものなら私が…」
アラステアはゆっくりと首を振る。
「僕は子供の頃からメイソンの仕立てたものしか着ないんだ。」
「……なるほど。」
レオナールは、穏やかに微笑んだ。
「アラステア……もしも、元の世界に戻れたら……お前はこの鏡をどうするつもりだ?」
「どうもしないよ。」
「なぜだ?ここにお前の愛しいフィリスはいない。
いるのはこの私だけなのだぞ。」
「……そうだったね。
ここに僕の愛しい人はいない。
いるのは…………意固地な友人だけだ。」
レオナールの瞳が一瞬大きく見開かれ、その視線は急に落ち着き失い、宙を彷徨う。
「アラステア……私は……」
「君も一緒に戻る?」
「私はここから出られないと言っただろう。」
「……僕は諦めないよ。」
「……そうか、メイソンの仕立てた服はここでは手に入らんからな。」
アラステアは小さく笑ってゆっくりと身体を起こした。
「そういうこと。
さて…それじゃあ……」
「やめておけ。」
「僕は諦めが悪いんだ。」
「そうじゃない。
たまには違う運動にしてみたらどうなんだ?」
「……え?」
レオナールは、立ち上がり、視線を向かい側の壁に向けた。
そこには、スコットの持ち帰った鏡が掛けてある。
アラステアは、レオナールの意図を汲み取った。
「スコットの前でも、フィリスの時のように素直になれたなら、きっともっと仲良くなれるだろうにな。」
「……レオ……
君は、戻らないの?」
「愛称で呼ばれたのはずいぶんと久しぶりだ。照れくさいものだな。
何度も言っているだろう…私は戻りたくても戻れないのだ。
だが、おまえは違う。」
「え?」
「アラステア、今更なんだが……フィリスのこと……騙してすまなかったな。」
「恥ずかしいから、その話はやめておくれよ。
ねぇ、レオ…いつか君のことを話してくれるかい?」
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