鏡の中と外

24/24
前へ
/53ページ
次へ
「さぁな…気が向いたらな。 そんなことより…早く運動したらどうなんだ?」 「そうだね……」 痛みに顔を歪ませながら、アラステアはゆっくりと立ち上がった。 「レオ……君にはずいぶんと世話になったね。 ありがとう。」 「一体何のことだ?私はおまえの世話などした覚えはない。 そんなことよりも、いつもの無様な運動を早く見せて笑わせてくれよ。」 「……あぁ、わかったよ。」 アラステアは、壁に掛けられた鏡をじっとみつめた。 「レオ……よく見ててよ。」 アラステアは、足を引きずり鏡に向かって懸命に走った。 しかし、それは歩くのとさほど変わらないもたもたとしたものだった。 「レオ…また会おう!」 ほんの少し振り返り、そう言って鏡にぶつかったアラステアの姿はその場から掻き消え、それと同時に壁の鏡から飛び出すアラステアがレオナールの目に映った。 「いた……」 どすんという大きな音と共に、アラステアは地下室に戻った。 それは意外な程、呆気ない出来事だった。 (……戻れたんだ……) アラステアが感傷に浸る間もなく、不意に扉が開いた。 「……あ……アラステア!」 スコットはすぐにアラステアを発見し、彼の元に駆け寄った。 「アラステア!」 「遅くなってごめんよ。」 「そんなこと…… 構わないよ…こうして戻って来てくれたんだから。」 ぽろぽろと丸い涙をいくつもこぼしながら、スコットはアラステアの身体を強く抱きしめた。 「あ、いたた……」 「え?」 スコットは驚き、アラステアから身体を離した。 「どこか痛むの?」 「詳しいことは後だ。 まずは、つまらない期待をして集まってる親戚たちに帰ってもらおう。 スコット、ちょっと肩を貸してもらえるかな?」 「あぁ、良いよ。」 スコットは、アラステアに肩を貸しながら、ゆっくりと地下室を歩いて行った。 そんな二人の姿を、鏡の向こう側から、レオナールが目を細めてみつめていた。 ~fin.
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加