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彼の愛した相手は、残念ながら結ばれることのない相手なのだと。
おそらくは、すでに家庭を持つ女性……
もしかしたら、彼よりもずっと年上で……彼の純粋な気持ちとは裏腹に、彼女はただ遊びのつもりなのかもしれない。
世間には良くあることだ。
もしくは……突飛な話だが、彼と同じ男性か……
最初は友達のように付き合っているうちに、その想いが強くなり過ぎて、形を変えた……
彼にはそういうこともあるかもしれないと思えた。
「そう……
でも、結婚だけがすべてじゃないからね。
僕だってまだ独身だし、そう急ぐことはないさ。」
的はずれなことを言ってるのは、自分でもよくわかっていた。
彼はこんな言葉を望んではないだろう。
僕の予想通り、彼はまた作り笑いを浮かべた。
否定も肯定もせずに、ただ、切ない表情で無理に微笑んで見せた。
「ねぇ、アラステア……
その人は……」
「ごめん……僕、なんだか疲れたみたいだ。
このところは、調子が良かったんだけどね。」
「あ…あぁ、それはいけない。
夕食まで少し横になったらどうだい?」
「ありがとう。
そうさせてもらうよ。」
彼は、好きな人のことについてはもう話したくないのだ。
「アラステア……」
拒絶した背中に向かって、僕が呼び掛けると、彼は足を停め僕の方を振り返った。
「……何だい?」
「僕は……君に好きな人が出来たことを嬉しく思うよ。」
なぜ、そんなことを口走ってしまったのかは自分でも良くわからない。
彼の背中がそれだけ寂しそうに思えたのかもしれないが、励ますにしてはなんともおかしな言葉だった。
「……ありがとう。」
「い、いや……」
彼は、僕が考えもしなかった程、とても嬉しそうな顔でそう言って微笑んだ。
その笑顔を見た時に、僕は彼がその人をどれだけ純粋に愛しているかを思い知らされたような気がした。
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