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解せぬ。
別に着物自体は汚れてないし、着替えだって二着持ってきてあるのだ。
「ほら、山中で話しただろう。男装してもらうって。その袴さ。まあ・君の着物は紺や藍のものばかりだから袴だけ調達してきたんだよ。」
それでわたしが草鞋を見繕う間いなかったのか。
合点。
そこへ丁度いいところに主人がやってきた。
お礼を言って案内されたころに行く。
袴は稽古のときに着ていたから困らなかった。
「よし。」
そろそろお腹も減ってきた。
髪をまとめるのもなあなあに、ししょーの元へと戻る。
「お・意外と似合うもんだなあ。」
ニコニコ―――というよりもニヤニヤといったふうに顎を撫でているししょーを見てわたしは殴りたかった。
が、耐えた。わたし偉い。
ほら、後ろにいる主人も奇異なものを見る目で……見ないで!!
「褒められても嬉しくなんてないです!男物なのにッ!」
「えェ・素直じゃないなァ。まるでうん十年前のカブキモノみたいだねェ。」
「ししょー、いい加減にしてください!」
「おっと・失敬失敬。ご主人ありがとう・これ御代です。」
そう言ってししょーは何銭か握らせて店を出ていくのでわたしも主人に会釈して後を急いで追いかけた。
「もう!ししょー!もうあのお店二度といけなくなりました!」
「ははは・君にも恥じらいというものがあるようだね。」
「ししょーはさっきから失敬すぎます!」
「ごめんて。蕎麦は奢るから。「それは当たり前です!」……手厳しい。」
そう言って泣きまねをするししょーを引っ張って主人おすすめの蕎麦屋に入った。
そして店をあとにするときのししょーが半泣きだったのを見てわたしの心は晴れ晴れとしたのだった。
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