0人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
***
「それにしても江戸って本当に賑やかなんですね。」
わたしは辺りをキョロキョロしながら見慣れないお店を眺めていた。
甘味、呉服、野菜、魚、小物などなど……だ。
「ああ・何たって『火事と喧嘩は江戸の華』というぐらいだから。賑やかなのが好きなんだろうねェ。」
そう言ってししょーも懐かしそうに辺りを見回した。
そして一点を見つめると、ちょっと、と言って引っ張られる。
また逸れると悪いからって蕎麦屋を出てからまた手を繋がれたんだけど……勝手に行動しないでほしい。
何時になく子供じみているししょーに溜息をつきそうになりながら引っ張られるがままに足を動かしたのだった。
***
「遅い……。」
全く何をしているのやら。
連れて行かれたのは品揃えのよさそうな小物屋だった。
ちょっとの間わたしを店の外に連れて行くかどうかで迷ったらしいけど結局わたしを置いて店へと入っていった。
わたし自身何せこのようなところは初めてだったので外に並んでいるものを見ながら待つことにした。
蛤に入った紅やちょっと細工の綺麗な簪など、なるほど若い女子が好きそうな代物だ。
かくいうわたしもその中に入るのだが。
そうしていると
「まあ・素敵!新しい尾上菊五郎様の錦絵だわ!」「見て!団十郎様のも素敵ですこと。」
良家の姫方だろうか。身なりもいいし言葉づかいも上品だ。
ふと頭を過る。
―――ししょー、お慕いしている方がいるのかしら。
そうだ。
だいたいこんな女物ばかりのところにわたしを置いてまでするのだからきっとそうに違いない。
からかってやろう。
でも。
ちょっぴり複雑だ。……ちょっぴり。
ふと櫛が目に入った。それを手に取る。
豪華でもなく地味でもないが華奢な作りで洗練された雰囲気を放っていた。
「綺麗……。」
―――「待たせたね。」
ビクッとして振り返ると若干疲れた気なししょーがいた。
わたしは―――何故だかわからないのだが―――咄嗟に櫛を元に戻した。
「もう遅いですよ!もう日も大分暮れましたしはやく行きましょう!」
わたしは早くこの場を去りたかったのだが、やはりししょーはどうにもわたしの言うことを聞いてくれない。
「ん。買い忘れたのあったからちょっと待って。」
そう言って店に戻ったししょーが帰ってくるのは存外早かった。
最初のコメントを投稿しよう!