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***
「ああ・もう酉の刻を過ぎるあたりですよ!」
「ははは、そんなに焦らなくてもあともう少しだよ。」
そう言ってちっとも焦らないニコニコと例のごとく優男らしい笑みを浮かべたししょーにそろそろ苛立ってきたころだった。
「もう!これでは―――「あそこだよ。」……。」
ふふふ、と笑ったししょーの指差した先にはポツンと建物があった。
表札には、
「…試、衛館……?」
そんな道場聞いたことない。
「そ・試衛館。何日かお世話になるところだよ。」
「……。」
「おい!てめェら!何用だ!ここは強い奴以外はお断りだぜ!」
シンとした静寂を破り裂いたのは男の人の声だった。
思わず今日の男が脳裏をかすめるので頭を振って打ち消す。
それに、ししょーは
「道場破りに来ました!」
と今日一番のいい笑顔で言うものだからわたしとその男が変な声を上げたのは致し方ないことだと思う。
***
いやいや……ししょー、何の冗談ですかっての。
冗談だよね?
「「道場破りぃーっ!?」」
「おや・いつの間に仲良くなったことやら。」
クスクスと他人事のように笑うししょー。
突然のことに頭が追い付いてない様子の男。
そして呆れて何も言えないわたし。
「何叫んでんですかー?全く歳さん……近所迷惑ですからね!」
そんな空気を切り分けてこちらに来た勇者はわたしとあまり変わらない少年?であった。
……あまりに顔が中性的でよくわからないが。
提灯明りに照らされた彼は長い睫を伏せて困ったように溜息を吐いた。
「総司じゃあねえか!丁度いいとこに来てくれたぜ!こいつァ『道場破り』来なすったようだぜ。」
「はあ?こんな夜更けにですか?今何刻だと思っているんですか今日はつねさんがいないから良かったですけどこんなことがばれたら歳さんだけじゃなくて他の皆も追い出されちゃうんですからね本当にはた迷惑な話ですよ全く―――「あのぉ……」はい?」
すごい…息継ぎなしでここまで捲し立てられるなんて。
一種の感動すら覚える。……あのししょーも引いてらっしゃるし。
「いえ・俺たち本当は道場破りなんかじゃなくて「その声……つかさんですか?!」……覚えていたんだね。」
どうやら知り合いらしい。よかった、一時はどうなることやらと。
とりあえず寝床は確保だ。
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