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「なんだい?騒がしいね?」
そう言って廊下の途中の襖を引いて青年が声をかける。
「源さん……?」
「その声は……士くんじゃあないか!」
ニコッとししょーに笑いかける表情はししょーと同い年ぐらいなのに所作が丁寧で貫録もあるので年齢不詳だ。
こちらも優しそうな人だ。ちょっと安心。
「そちらの御嬢さんは……ムグッ」
わたしの顔を見た途端ひどく驚いた顔をして。
”そちらの御嬢さんはどうしてこちらへ?”
そう続くはずだった彼の口元を見て。
「あー!そうだ源さんも一緒に広間行きませんか?そこに総司たちがいるはずなんです。」
それを遮るようにわたしと彼の間にししょーが体を滑り込ませる。
「……どうして総司君がいないのかなあ。彼頼まれてたはずなんですけどね。」
ふふふ、こちらです、と言って先を歩く彼の背中が黒い。
三馬鹿も震えてる。ししょーも苦笑い。
前言撤回。ここにはまともな人はいないのか!
「というか……」
さっき彼はわたしに”御嬢さん”と呼びかけたし、わたしのことを知った風だった。
―――もしかしたら何かわかるかもしれない……。
「ん?どうした?ちっこいの。なんか言ったか?」
わたしと同じくらいの背丈の平助…くんが覗き込んでくる。
わたしは頭を振って見えてきた襖を見つめた。
***
「変わっていない……」
懐かしげに襖を撫ぜたししょーの表情がとても穏やかで。
その初めて見た表情にわたしは心がキシリと鳴った。
「そりゃおめー、二年しか経ってねぇんだから。」
―――二年?
首を思わず傾げる。
ししょーの視線を痛いほど感じる。直感で分かった。
―――ししょーは何か知っている。
それは今までも薄々感じていたことで。
聞かなかったわけではないけどいつもはぐらかされた。
何か、何故か。それはわからないのだけど。
恐らく記憶に関係してるのかな・なんて。
まあ・いずれわかることだ。
どうして記憶がなくなったかも。
どうして家族がいないのかも。
そして。
ししょーがどうして何かを隠したがって、何者なのかも。
この旅で必ず明らかにしてみせるのだから。
ししょーの視線が外れたころ、源さんが襖に手をかけ、ようとした。
あちらから襖が開かれ、驚いた様子の総司君と疲れ切った顔の土方さんがいたのだった。
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