第二曲目 トンシャン娘、道場破りをする

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「なんだい?騒がしいね?」 そう言って廊下の途中の襖を引いて青年が声をかける。 「源さん……?」 「その声は……士くんじゃあないか!」 ニコッとししょーに笑いかける表情はししょーと同い年ぐらいなのに所作が丁寧で貫録もあるので年齢不詳だ。 こちらも優しそうな人だ。ちょっと安心。 「そちらの御嬢さんは……ムグッ」 わたしの顔を見た途端ひどく驚いた顔をして。 ”そちらの御嬢さんはどうしてこちらへ?” そう続くはずだった彼の口元を見て。 「あー!そうだ源さんも一緒に広間行きませんか?そこに総司たちがいるはずなんです。」 それを遮るようにわたしと彼の間にししょーが体を滑り込ませる。 「……どうして総司君がいないのかなあ。彼頼まれてたはずなんですけどね。」 ふふふ、こちらです、と言って先を歩く彼の背中が黒い。 三馬鹿も震えてる。ししょーも苦笑い。 前言撤回。ここにはまともな人はいないのか! 「というか……」 さっき彼はわたしに”御嬢さん”と呼びかけたし、わたしのことを知った風だった。 ―――もしかしたら何かわかるかもしれない……。 「ん?どうした?ちっこいの。なんか言ったか?」 わたしと同じくらいの背丈の平助…くんが覗き込んでくる。 わたしは頭を振って見えてきた襖を見つめた。 *** 「変わっていない……」 懐かしげに襖を撫ぜたししょーの表情がとても穏やかで。 その初めて見た表情にわたしは心がキシリと鳴った。 「そりゃおめー、二年しか経ってねぇんだから。」 ―――二年? 首を思わず傾げる。 ししょーの視線を痛いほど感じる。直感で分かった。 ―――ししょーは何か知っている。 それは今までも薄々感じていたことで。 聞かなかったわけではないけどいつもはぐらかされた。 何か、何故か。それはわからないのだけど。 恐らく記憶に関係してるのかな・なんて。 まあ・いずれわかることだ。 どうして記憶がなくなったかも。 どうして家族がいないのかも。 そして。 ししょーがどうして何かを隠したがって、何者なのかも。 この旅で必ず明らかにしてみせるのだから。 ししょーの視線が外れたころ、源さんが襖に手をかけ、ようとした。 あちらから襖が開かれ、驚いた様子の総司君と疲れ切った顔の土方さんがいたのだった。
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