0人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
***
家が大分遠くなり、出発したときよりも足の運びがぎこちなくなる。
……ああ、もうあんなに日が傾いてる。急がねば。
ザクザクとカラコロが山中に響く。
うぐいすの声もいつの間にか止んでいた。
わたしよりも二・三歩前を歩く、ししょーがちょっと振り返って笑いかけてきた。
「おりん、大丈夫かい?君ぐらいの子には大分つらい道のりだろうから。」
休むかい?とニコリとわたしに目線を合わせてくる。
確かに村の道のりよりもデコボコしていて歩きづらいし(草鞋を持ち合わせていなかったので)下駄なのでかなり歩きづらい。
普通の14歳(正確な歳はわからないのだが)には確かに厳しいかもしれないけれど。
「優男め。」
「はは…手厳しいねェ。」
「”14歳”といってもどれだけ、ししょーにしごかれたと思ってるのよ。」
「まだ根に持っていたのかい?!」
旅路の途中で襲われたら守ってやれないかもしれないから、とししょー自ら竹刀を握ってわたしに稽古をつけてくれたのだった。
それ故に、旅の出立が遅れてしまったので少し申し訳ないとは思うがあの稽古……もとい拷問を耐え抜いたわたしはすごいと思う。
……過去の私よくやった。
ししょーは竹刀(ししょーが持つとそれは一体どうしてか真剣に見えた。)を握るといつもの穏やかな雰囲気が一変して剣呑とした雰囲気―――というよりも殺気―――を振りまきわたしを縛り付けた。
素人目に見てもししょーは強いと思う。
剣を握ったことのないわたしは殺気に耐えることで精いっぱいだったのだが、ししょーは構わず竹刀を振り下ろす。
それでもわたしが怪我を負うと途端に殺気が霧散し慌てて手当をしてくれるのだが。
「別に、ししょーのおかげで強くなれたのですから。感謝こそすれ恨んでなど……。」
「まあ・ちょっと厳しすぎたとは思うんだけど。君は自慢の一番弟子だよ。」
そういって目を細めて笑うししょーは本当に”優男”だと思う。
「それは……ありがとうございます?」
「なんで疑問形?素直じゃないねェ、おりんは。」
ちょっと口先を尖らせるししょーはちょっとかわいかった。
ところでししょーは何歳なんだろう。いつもはぐらかされて終りだけど。
最初のコメントを投稿しよう!