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「おい、てめェ。てめェのせいで着物汚れちまったじゃねーか。え?どうしてくれんでェ?」
随分と酒を飲んでいるようだ。
外見からして浪士か?
ちょっと訛りもあるみたいだ。
「す、すいませんでした……。」
なるべくここは穏便に済ませてししょーの後を追うことにしよう。
それが得策だ。
そうわたしが腹積もりしても皮肉なことに返ってきた言葉は別のものだった。
「……そうだな!そんじゃまあ、有り金全部よこしな!世のためにこの俺様が使ってやっからよォ?」
ゲラゲラ。
わたしってこんなに―――だったっけ。
惨め、悔しい、恥ずかしい、屈辱。
「…っ。…し、しょー…。」
「あァ?誰だァあ?ほざいてないでさっさと出しやがれ!……なんなら体で払ってもいいけどな?」
ニヤリ。
顔は見てないが、わかる。
悪寒が走る。
生まれてきて初めてわたしは自分が女に生まれてきたことに酷く劣等感のようなものを感じた。
「ッ……。」
「黙ってねェでいいかげ「はいはい、ちょォっとすいませんね。」…あ?てめェは?」
わたしはハッとして顔を上げた。
そこにはわたしが求めていたその人がいた。
「し、しょー……。」
「悪かったね、早く気付いてやれなくて。」
コワかっただろう?
そうこちらを安心させるかのように微笑んだ彼は男に向き直る。
「あ?てめぇが『ししょー』とかいうやつなのか?」
「ああ・どうも連れの不注意のせいですまなかったな。どうか許してやってくれ。」
「てめェら、揃いも揃って馬鹿なんだなァ!武士である俺にぶつかっておいて!謝って済んだら岡引きなんていらねんだ―――」
わたしにも―――二年間彼のもとで修業したわたしにも―――銀色のきらめきの正体には気づけなかった。
いつの間にかわたしたちを取り囲んでいた野次馬にも、それを突き付けられている男も。
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