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***
「そうだな・・・草鞋を買ってそのあと蕎麦でも食べに行こうか。」
先ほどの混乱から幾分か経った後、ししょーはそう切り出した。
ししょーの声が心地よい。
「はい。」
「・・・大丈夫かい?ちょっとは落ち着い―――「止めましょう?」……ん。」
もうあの時のことは思い出したくない。
恐怖?屈辱?悔しい?痛い?
どんな気持ちだったかも記憶の隅に追いやりたくなる。
ただただ『ししょー』という存在で上塗りしたかった。
***
「……っと、草鞋も調達したし手ぬぐいも何枚か調達したし…あとは大丈夫かな?」
あれから履物屋に着くなり、ししょーは用事があるといって別行動となった。
……だからちょっと心細い。
「―――なんて全然思ってないんだから……。」
「何がだい?」
「ひゃう!?」
吃驚した。
心の臓があやうく口からこんにちはするところだった!!
「……いつからいたんですか。」
わたしがキッと睨みつけてもどこ吹く風といった風に(本当にピュウイっと口笛まで吹いて見せた)ニヤニヤとわたしを見てくる。
お店の主人もニコニコと、仲のいいことで、なんて言って笑ってばかりだった。
……ここに味方はいない。
「ごめんごめん。寂しかった?」
「なっ……。」
否定しようと思ったら上から手が降ってきてクシャっと撫でられた。
普通の女の子のように髪を結っていたらどうするつもりだったんだろう。
わたしは昔にばっさりと髪を切ってしまったようで簡単に結い上げてるしかなかったのだが。
「ししょー…。」
「あははは・ごめんごめん。あ・そうだ・忘れてた、ご主人!」
お店の主人をちょいちょいと呼び止める。
「すいませんがちょっと着替える場所を貸してくれませんか?」
「へい、ちょっとお待ちを。」
そういって奥へと引っ込んだのを見届けてわたしはずっと気になっていたししょーの持っている少し大きな風呂敷をツンツンと突いた。
「これ何入ってんの?」
「これは君の着替えだよ。」
「へ?」
今なんと??
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