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小鳥と洋館
大学進学で引っ越したアパートの近くに古い洋館があった。
大正時代に建てられた館で、今は済んでいる人はいないけれど、定期的に管理人さんが様子を見に来ているらしい。
文化財に指定されてるとかはないらしいが、ともかく綺麗で、地元では隠れた名所として扱われていた。
俺も見るなり気に入って、休みの日には洋館周りをよく散歩した。
その時に、たまたま『それ』を目撃した。
洋館は三階建てで、家の人が使ってたのか客間なのかは知らないけれど、どの部屋にも豪奢な窓ガラスが嵌められている。
その、一番南西の部屋の窓に、一羽の鳥が体当たりをしていたのだ。
野鳥の種類はよく判らない俺でも、珍しいなと思うような小鳥。そいつが洋館の窓に体当たりをする。当然弾かれるが、まるで懲りもせず、何度も何度も突撃する。
最初は、窓ガラスがあまりにもピカピカで、周囲の総てが鮮明に映り込んでいるから、小鳥が、向う側にもまだ飛んで行ける空間があると勘違いして、このひたすらな突撃行為を続けているんだと思った。
だけどこの日以来、洋館の近くを通るたび、俺は小鳥の体当たりを目にするようになり、次第に、小鳥の行為には何か目的があるのではと思うようになっていた。
かつん。かつん
近くを通れば、またくちばしが弾かれる音がする。
止めてやりたいとは思うが、洋館は立ち入り禁止だし、小鳥に叫んでも意味など伝わりはしない。せいぜい声に驚いて一時逃げるが、暫くすると戻って来て同じことの繰り返しだ。
その光景を日頃見ているからこそ、小鳥には、あの窓にぶつかりたいと思う理由があるのだと思うようになったのだ。
しょっちゅう見ているせいか、飼っている訳でもないのに小鳥に親近感が湧いて、何かしてやれることはないだろうかとたびたび思うようになった。
そんなある日、思いもかけない機会が巡ってきた。
洋館が、タウン誌の読者投稿コーナーで、隠れ名所のように紹介されたことがきっかけで見物客が増え、それをきっかけに、市の広報課か何かが管理人や持ち主の肩に連絡を取り、維持費の一部を負担する代わりに、期間限定の一般公開がなされることになったのだ。
その話を聞いた時、俺は絶対に見学に行こうと心に決め、一般公開の日を待った。
そして公開当日。
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