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「そうかあ。でもウミワラジを相手に出来るくらいなら、高い値がつくだろうよ」
「父ちゃん、命の恩人に失礼なこと言わないでおくれよ」
「別におれはそんなつもりじゃねえよ」
両親の口喧嘩が始まりそうなのを察して、賢いヨナが話に割って入った。
「それじゃあ、ユズナお姉ちゃんは、どうしてクナへ来たの?」
「そうね……海の向こうの人達と、知り合いになりたかったからかな」
「そうなんだ、じゃあ、私達が最初の知り合いだね」
「そうね、ヨナ。会えて嬉しいわ」
「本当?」
「ええ、とっても」
ヨナは米粒をつけたほっぺたで笑顔を作った。ユズナの心の中のほろ苦い感情も、それを見ると和らぐのだった。
「いつまでこの港にいるの?」
「しばらくは居るつもり。何か商売を始めるのもいいかなって思うの。例えば、この家みたいな宿屋も素敵だなって……」
「その宿屋は、食事は出すのか?」
それまで黙っていたシオンが口を開いた。
「出してもいいわね」
「誰が作るんだ?」
「もちろん私よ」
ウミワラジと向き合っても眉一つ動かさなかったシオンの顔色が、少し青ざめた。
テパンギの王族に生まれたトコユノハナヒメは、料理など作る必要も無く育った。興味本位で料理を作ることはあったが、それはいつもおそろしい結果を生んだ。
宴席に呼ばれたある武将は「戦場にあって敵を挫くに、姫の武術は百人力なれど、その料理は千人力である」と後々まで語ったと、テパンギの正史にも記されている。また姫の料理が振る舞われる日には、王宮の周りから野良犬が尻尾を巻いて逃げ去ったという逸話も伝えられているほどである。
「私、テパンギの料理を食べてみたいな」
「ええ、いいわよ。喜んで作っちゃうから」
「やったあ」
無邪気なヨナの言葉に、シオンは静かに首を横に振った。
その客がやって来たのは、昇った月が雲に隠れた時のことだった。
食事を終えたユズナとシオンが部屋で休んでいると、おかみさんが来客を告げた。見知らぬ男が一人で訪ねてきた、どうやら北から来た異邦人のようだ、と。
シオンは刀を掴んだ。
昼間つけられていたというシオンの言葉をユズナも忘れていなかった。
「物騒な客なのかい?追い返そうか?」
おかみさんは心配そうな表情を浮かべた。
「いいえ、大丈夫」
ユズナはシオンと二人で玄関に出た。
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